「埋没費用の効果」あるいは「コンコルド効果」としてのネトゲ

  • 埋没費用

埋没費用(まいぼつひよう)ないしサンク・コスト (sunk cost) とは、事業に投下した資金のうち、事業の撤退・縮小を行ったとしても回収できない費用をいう。

埋没費用 - Wikipedia

ある対象への金銭的・精神的・時間的投資をしつづけることが損失につながるとわかっているにもかかわらず、それまでの投資を惜しみ、投資をやめられない状態を指す。埋没費用の別名。

コンコルド効果 - Wikipedia
ならば一体どこへ行けばいいのか

川上氏:
 僕は,今のオンラインゲーム(主にMMORPG)を見ていて,とにかく「現実世界で生きるか仮想世界で生きるかのどちらかを選べ」って態度が気に入らないんですよね。ゲームって娯楽であるハズなのに,それはどうなんだろう?と思ってしまう。もちろん,そういう仕組みになっている理由は理解しているつもりですが,それにしたって,これでは先がないと思うんです。

「今のオンラインゲームは気に入らない」――ドワンゴの川上氏と麻生氏が語るニコ動,そしてネットサービス - 4Gamer.net


前述にある「UO黎明期への憧憬」の話も含めて、概ね理解できる。


それが娯楽であるからこそ、人はネトゲのみでは生きていけない。


である癖に、「膨大な投入時間」を要求する現状はおかしい、と言ってるわけだ。
まぁまさに正しくその通りです。
特にMMORPGにおいて迫られる強烈な二者択一は、だからこそ、プレイヤーにとって埋没費用の効果(コンコルド効果)から逃れられない。



しかし、こうした投入時間ゲームへの進化は、多かれ少なかれ、ユーザーの願望があったと思う。
以前の日記で書いたように投入時間ゲーム、というのはある種「娯楽」として正しい姿だと言える。
「娯楽」であるからこそ、上手い人も下手な人も、レベルが全てを解決してくれる。
それは平等で優しいルールではある。
その結果が今のような状況なのは皮肉な話であるけれども。


まぁこうしたユーザーの願望を叶えた結果衰退した、というのは別にMMORPGに限った話ではなく、
かつてアーケードで、ストⅡという栄華の絶頂にあった格闘ゲームはユーザーの願望通りに尖り過ぎていって衰退した。
同じようにMMORPGが投入時間ゲームとして先鋭化し過ぎて衰退していっても、不思議な話ではない。


投入時間ゲーが事実上の現在のMMORPGスタンダードになった。
そしてスタンダードであっても、もちろん実際にそれ以外のゲームも生まれたりしている。
投入時間ゲーへの対抗として、もっと楽に育成ができて、もっと楽にエンドコンテンツが楽しめるような設定なゲーム。
しかしそれはまさに現状が示す通りに、商業的に失敗し、投入時間ゲームのスタンダードの地位は揺るがなかった。



結局の所こうしたジレンマは、開発・運営の側だけではなく、プレイヤー側にも勿論存在している。
プレイヤー達は埋没費用の効果・コンコルドの効果と、
見なかったフリをしたり、折り合いをつけたり、あるいは無理をしたり、そうして皆MMORPG付き合っている。


あるいがそれがある故に。
かつて投資した時間が無駄になる事を恐れるが故に。
かつて投資した金銭が無駄になる事を恐れるが故に。
かつて投資した交友関係が無駄になる事を恐れるが故に。
高い代償を払ったが故に止められない。


実際の所プレイヤーの一人として、こうした面があるんじゃないか、と聞かれれば完全に否定できない所ではある。
そしてそれ故のネトゲの中毒性と言われれば、それが全てでは無いにしろ、確かに一面ではあると思う。
まさにコンコルドが失敗したのと同じ理由で。


「現実世界で生きるか仮想世界で生きるかのどちらかを選べ」って態度、だから嫌われる。
「現実世界で生きるか仮想世界で生きるかのどちらかを選べ」って態度、だから続けてしまう。
オンラインゲーム、特にMMORPGにおいて、こうした状況は確かに歪であり、
しかし歪であるが故に、(段々衰退しつつも)未だ元気に続いてるんでしょう。


さて置き、もし、こうした心理状況を計算に入れた上で、レベル制MMORPGを最初にデザインした人が居るとしたら、
それはもうおっそろしい話だなとは思う。



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