日本の理想主義とアメリカの理想主義

似ているようで、でも違うということ。当たり前だけど忘れがちな話。
日本とアメリカは違う国なので、政治力も経済力も軍事力も人口も領土も価値観も周囲の環境も違う。だからアメリカにとっての「理想」と「現実」は、日本にとってのそれとは、もちろん共通する部分もあるけど、基本的には違うものだったりする。


アメリカはもう台湾を守れない | ワールド | 最新記事 | ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト

 バラク・オバマ大統領はこの一週間、さまざまな相手を怒らせてきた。まず、共和党議員を中身のないただの目立ちたがり屋だと糾弾。EU(欧州連合)に対しては、5月に予定されているEUサミットに出席しない意向を表明した。 
 さらに、企業に温室効果ガス排出枠を課すキャップ・アンド・トレード方式の新年度予算への計上を見送る方針を決定。環境保護団体に対して、もはやこの方式に期待していないというメッセージを送ったも同然だ。

 だが、なかでも最も大きな意味をもつのは、台湾に64億ドル相当の武器を売却するという決断だ。

 予想通り、中国は激しく反発した。中国外務省は「多大な内政干渉の一環」であるとし、「強烈な憤慨」という表現で怒りを露わにした。

アメリカはもう台湾を守れない | ワールド | 最新記事 | ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト

かつての超大国から、普通の大国になっていくアメリカの現実主義と理想主義の話。


さて置き、こんな台湾に武器売っちゃうような、アメリカの中国に対する姿勢。
これってすごいアメリカの古き良き理想主義的な話だと思うんですよね。正義の国家アメリカと戦う悪の帝国、な絵。まさにかつてのアメリカ外交の理想主義丸出しです。ついでに言うと、かつての孤立主義を彷彿させるような引き篭もろうとする姿勢も。だからこうした姿勢が保守よりだ、というのは確かに正しい。
アメリカではこんな姿勢が理想主義的だって言われてた。日本とは大違いです。
そもそもアメリカと日本は、中国との距離が全然違う。日本では隣の国であるのに対して、アメリカにとってはほぼ地球の裏側です。だからそんな国に対して敏感に反応する、なんてのはまぁ現実的じゃない。ちょっと位危なくなったって、それ(台湾有事)が即、自国の危険に繋がるわけではない。だから現実的に考えれば、そこまでリスクがあるわけじゃないので「中国と仲良くして儲けよう」というのは確かにアメリカにとって現実主義なんです。同じように欧州諸国が中国に甘いと言われてるのもそういう理由なんでしょう。遠いからどうでもいい。


昔、キッシンジャーが推し進めたアメリカ外交の改革は、こういう事なんですよね。正義万歳な国アメリカから国益を考えた現実的な外交への脱皮。それは主に中国やソ連との緊張緩和だったと。まぁだから保守っぽい人から嫌われてるんですけど。


翻って中国の「隣国」な日本にとっては、このようなアメリカの考えを現実主義として受け入れられるかと言えば、まずない。日本とアメリカは違う国だから。日本は中国の隣国だから。
その中国が実際に何を考えてるかはともかく、前歴があって、(地球の裏にあるアメリカと違って)隣の国が軍事費を膨張させているのを見て、何も思わないのはぶっちゃければ馬鹿でしかない。だから最近の日本の防衛は常に中国を意識してきた。現実的なごく当たり前の結論として。そして勿論、日本周辺の国家が日本の軍事力を見て、(実際に日本自身がどう思ってるかはともかくとして)警戒するのは正しい姿勢だといえる。それと同じように日本が警戒することも。
アメリカは国益を考えれば、中国を下手に刺激するより大人しくしてた方が、より現実的である。
日本は国益を考えれば、中国の膨張を見逃さずに対抗しようとするのは、より現実的である。


同じ言葉で現実的とか理想的とか言っていても、実際に指してるものは違う。少なくとも外交上においては。例えばオバマ大統領の言う現実的な選択というのは、別に台湾見捨ててもいいや的な話であって、しかしそれは日本の現実的な取るべき・取って欲しい態度ではない。
アメリカは自分自身の国益を理想と現実の狭間で考えてるんだから当たり前の話ですよね。だから同じように日本も自分自身の事は自分でやるしかない。もしそれがやれないのならアメリカを上手く使うしかない。怒らせるなんてもっての他です。


結局の所、日本にとっては例えそれでアメリカの寿命が多少縮まろうとも、正義バカなアメリカの方がありがたいわけで。がんばれアメリカの理想主義の中の人。といっても正義バカ過ぎて迷惑な事も多いんですけど。