「人民元切り上げ」というパワーゲーム その3「ルールを押し付けなければならない人たち」

「人民元切り上げ」というパワーゲーム その1 - maukitiの日記
「人民元切り上げ」というパワーゲーム その2 「昔はみんな中国だった」 - maukitiの日記
思わず3部作になってしまったので前回と前々回をちょっと改題。毎日適当に書いてるのがバレますね。ということで今回が最終回。
前回書いたように、中国などのルールを守る気が無い国家たちの振る舞いは、「それなりに」正当性を理解できる面がある。では逆に、そんなルールを押し付けている先進国たちに正当性はあるのか? というお話。

神の手なんてなかったから

実際の所、中国などが批判するような「ルールの押し付け」という面は確かに正しい。
しかしながら何もそれは、自分(先進国)たちが優位になる為だけに、彼らはルールを設定し遵守させようとしているわけではない。(もちろんそれが全く無いとも言えないけど)
最も重要なのは、合理的な経済活動にとって規範や規則は必要不可欠である、ということである。つまり何らかの最低限のルールが無ければより良い経済成長は望めない*1。そして誰もが(少なくとも表向きは)公正に振る舞うからこそ、全体の利益と安定性がもたらされると。


一方は全員がルールを守る事によって、より良い経済成長が望めると信じている。
しかしもう一方は自分だけがルールを守らない事によって、自分だけがより良い経済成長が望めると信じている。


効率・生産性の面で言えば両者のやっている事はある意味で、どちらも、正解である。
まぁ後者は「自分だけが」ルールを守らないからこそ利益を得ることができるのであって、もし全員が同じようなことをやり始めればそんな利益は消えてしまうけれど。
だから逆に言えば「ルールの押し付け」と口では批判しつつも、中国はある意味でアメリカやヨーロッパや日本と同じ位に当面は「現在のルールが続く事」を実は望んでいる。そのルールが続いている限り、中国は「関税などによる市場の閉鎖性*2」の批判をされても、あるいは「人民元切り上げを先延ばしにしている為替操作国*3」と批判されても、まったく気にしない。むしろ、その批判こそが中国が利益を得ている事の証明でもあるから。
つまり中国だけが競争でフライングやドーピングをしている状況が理想なのであって、他の皆が一緒に不正をしてしまったらまるっきり意味がない。


そして「ルールを押し付ける」先進国たちはそんな戦略を取れるはずが無いので*4、最低限必要な共通したルールの上でやっていこうとしている。
そうして見ると中国は確かに危ない橋を渡っている。しかし同時に欧米や日本のルールへの執着を知っているからこそ、そうした選択肢を取っているともいえる。それをまぁルールを守護すべき先進国の人々は苦々しい目で見ているわけだ。


うん、なんというか、やっぱりパワーゲームですよね。

*1:この辺は去年ノーベル経済学賞をした「取引費用」や、もっと大きく言えば「新制度派経済学」の概念に近い。

*2:http://www.sankeibiz.jp/macro/news/100609/mcb1006090502004-n1.htm

*3:http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPJAPAN-14664720100405

*4:昔似たようなことして戦争の一因にまでなった事だってあるわけで