二つの「いつかと同じ過ち」を恐れるアメリカ

少し前から話題になっているアフガニスタン戦争のウィキリークス流出問題。でもそれって実は恐れているのは、単純にベトナムの失敗を思い出しているだけ、なわけではないんですよね。そんな問題から見るアメリカさんちの二律背反のお話。


Opinion & Reviews - Wall Street Journal
まぁ国内でも報道されるような「ベトナムの二の舞だ!」的な論調はよく見るので、反対をいくWSJの記事から。

 今回の流出文書を、ベトナム戦争に関する極秘情報を明るみにした米国防総省の「ペンタゴン・ペーパーズ」になぞらえる向きもあるが、それは的外れだ。今回の文書に記載された前線からの情報は、戦況は思わしくなく、タリバンは勢力を増しており、タリバンに対抗するには新たな活性化戦略が必要である、という米政府高官が以前から主張してきた内容を詳しく補完するものにすぎない。

 ブッシュ政権オバマ政権も近年は戦況について思わしくないとの判断を示しており、それを隠してはいない。また、オバマ大統領は今年、米軍の増派と対ゲリラ戦略の刷新を行っている。

Opinion & Reviews - Wall Street Journal

そういうわけで「これはベトナム戦争を彷彿とさせる事件です。故に撤退するべきである」という議論の反対側にはこうした論調がある。オバマ大統領のアメリカ政府も、当然の事ながら、それを支持している。今回の事は大したことではなく、我々は退くつもりはないと。
しかしそれでもまぁ確かにアメリカはかつてのベトナム戦争の失敗が思い出したくない教訓としてあるのは確かに事実なわけで。だからその教訓を元に今回は冷静な判断を下すべきだ、という意見が巻き起こるのも無理はない。
このまま続ければ「いつかと同じ過ち」(ベトナム戦争)と同じ失敗をしてしまうぞ、と。


だがその恐怖を抱えてでも、アメリカには続けなければいけないという後悔の念、あるいは強迫観念にも近い、もう一つの「いつかと同じ過ち」がある。
それはソ連撤退から1992年までの間に、アフガニスタンを見捨てた結果、である。
まぁ確かに普通に考えれば、あの時アメリカがアフガニスタンを見捨てていなければ現在こんな苦境に陥っていなかったし、そもそも発端となった9.11の事件さえ無かったかもしれない。そして勿論最も苦しんでいるアフガニスタンの国民に対しての責任も。



つまりアメリカにとってはこのまま泥沼に続けることが「ベトナム戦争の悪夢」を思い出させるように、ここで撤退してしまうことは「アフガニスタンからの悪夢」の二の舞を踏んでしまうことを意味している。アメリカはそのどちらも同じ位に、過去と同じ失敗をすることを恐れている。
故にそこにあるのは両者とも同じ言葉で自己正当化し、そして同時に相手の批判をもしている状況である。「かつての失敗を思い出せ」と。



結局の所、アメリカにはそもそも初めから逃げ道などない。どちらの選択をしようが「いつかと同じ過ち」を繰り返してしまう危険があるのだから。しかし同時にある意味ではどちらを選んでも逃げ道足りうる。
まぁだからこそ、アメリカはこんなにも悩んでいるし、そして今回のような事件さえも起きてしまうんですよね。