今更「自然に還れ」ない私たち

反文明主義とか反近代主義な人びとによる、悲しい試みのお話。


Opinion & Reviews - Wall Street Journal

 内部告発サイト「ウィキリークス」問題の確実な解決方法が一つある。インターネットをなくしてしまうことだ。それを除き、明白な解答は存在しない。

Opinion & Reviews - Wall Street Journal

(引用先でも最終的には否定されているけども)それは確かに一つの真理ではあります。これまで幾度となく語られた解決方法ではあるけども、しかしその究極的な解決方法はほとんど採用された試しがない。一度生み出してしまった以上、最早それを無かったことにはできないから。今回のインターネットと情報流出の関係もそうだし、あるいは原子力核兵器の関係もそうだし、そして近代科学技術と環境破壊問題もそうであるように。



そうした議論の最も有名どころでその始祖の一つとして、今からおよそ250年位前にジャン=ジャック・ルソーという有名なお人が『人間不平等起源論』*1で語ったような、人は物質的な欲求とそれに伴う精神的な充足を求めたりしない「自然人」へと還るべきである、なお話があります。しかしそんなルソーのお言葉である「文明を捨てるべきだ」な話は、歴史的な結果として、ほとんど全く受け入れられる事はなかったわけで。
もちろんアーミッシュ*2のような宗教的に科学技術を拒否する小規模な集団や、あるいは国家政策として抑制しようとしたブータンのような国家もあったりしたけども、しかしそれはあくまで極一部の少数派でしかなくて、私たちは基本的に「より進んだ」生活を求めてきた。


私たちは今更インターネットの無い時代には戻れないし、原子力の無い時代には戻れないし、近代科学技術の無い時代には戻れないし、そしてつまり今更自然には還れない。
プライバシーや機密情報の流出があることは勿論知っているし、核兵器のもたらす破壊力も知っているし、科学技術の地球環境にもたらす悪影響も知っているけども、しかしその上で自然に還らないことを選択している。だって最早その便利な生活を手放すことはできないから。そして他人が使っている以上、自分だけがそうしないという選択肢を選ぶことができないから。
それは単純に利益の問題であるというよりは、生存競争の問題でもあります。つまり使わなければ負けてしまうから。故に私たちはそうした解決方法ではなく、どうにかして延命と時間稼ぎの為の共存の方法を見出す事しかできない。

*1:人間不平等起源論 - Wikipedia

*2:アメリカ合衆国ペンシルベニア州オハイオ州インディアナ州など)やカナダ(オンタリオ州など)に居住するドイツ系移民の宗教集団。移民当時の生活様式を保持し、農耕や牧畜によって自給自足生活をしていることで知られる。アーミッシュ - Wikipedia