いま中東で起こっていることはイスラム革命とおなじくらい重要

あるいはエジプトさんちの家庭の事情Ⅱ。
ということで前回の日記ではそのエジプトの騒動の国内的ながっかり感を書きましたので、今回はエジプトの騒動から考える国際的な影響についてのお話。あと「エジプトって中東?」という突っ込みは僕にしないでください。


いま中東で起こっていることはベルリンの壁崩壊とおなじくらい重要 - Market Hack
しかし中東云々はともかく、なんでここでベルリンの壁なんて例えが出てくるかあんまり理解できない。そこはむしろイラン革命だろ常識的に考えて。ぶっちゃけアメリカが一番恐れているのはその一点だと思うんです。といっても何故かオバマさんは再び「史上最強の元大統領*1」の二の舞を踏もうとしているわけなんですけど。
つまり、ムバラクさんがパーレビ王朝の二の舞となってしまうかどうか。

初代皇帝レザー・シャーは軍事力を背景に中央集権化を進め、近代国家形成を目指して法制などを西欧化する改革を行い、1928年には不平等条約の撤廃に成功した。
第2代皇帝モハンマド・レザー・シャーはアメリカの支援を受けて石油利潤を元にした工業化と近代化を進めたが、原油価格の下落と急速な近代化の失敗から経済危機を招き、反皇帝運動が激化した。
1979年にルーホッラー・ホメイニーを指導者としてイラン革命が勃発すると、モハンマド・レザー・シャーはエジプトに亡命してパフラヴィー朝は崩壊し、イラン・イスラム共和国が成立した。

パフラヴィー朝 - Wikipedia

うわぁどっかで見た構図そっくりです。以前の日記でアルジェリアとチュニジアの比較を書きましたけど、今回のエジプトの騒動を見て真っ先に思い浮かべるのはやっぱりかつてのイランですよね。独裁的で親欧米政権だったイランがその後の革命により、一気に反欧米側に転回した事例。しかも悲しい事に少なくともそれには民主的には正当性が認められてしまう。
しかしこんな事になった時点でもうアメリカとしてはどうしようもないんですよね。どこまでいってもそれは勝ち目のない戦いにしかならない。最初のリンク先の人の言葉を借りれば「アメリカ外交の偽善ないしは矛盾*2」そのものである故に、その(革命へと至るかもしれない)抗議活動を積極的に認めることも、かといって積極的に非難することもできない。
まぁそうやってグダグダが続いた結果、カーター大統領はイラン革命を看過し、あの前述のありがたくない称号を頂戴してしまった。といってもその対応に問題があったわけではなくて、やっぱりあの時も同様に、もう始まった時点でアメリカの負けは確定的だったわけだけれども。もし彼がその失態を非難されるとすれば、そもそも何故こんな事態を招いてしまったのか? と。


その意味で(アメリカさん的には)『今後の展開をどうするか』という点について適当に考えてみると、昨日の日記では結構ボロクソに書いてしまいましたが、エルバラダイさんを担ぎあげるのはそう悪い選択肢ではないんですよね。勿論彼の資質はけっこう怪しい部分もあるんだけれども、しかしその経歴(IAEA事務局長やノーベル平和賞受賞)を見れば少なくとも最悪の選択肢ではないし、更にどうしようもない選択肢への抑止力となるという意味で。


結局の所チュニジアさんの時も言ったんだけれども、こうした時に一番に考えなければいけないのは、そしてこうした時に最も簡単に忘れ去られてしまうのは、過去の歴史の教訓なんですよね。「悪政を打倒したら次はもっとヒドイのが出てきた」ということを。
エジプトのそれはまぁ確かに結構ひどいものなんだけども、しかし実際エジプトの国民は前回選挙で動かなかったわけだし、そして今回も重要な契機となったのは伝統的な革命のトリガーである「市民の貧窮」でしかなかったわけなんだから。彼らはやっぱり、いつもの如く、「食えないから」こそ大規模抗議活動に至ったわけだから。そしてその貧窮の原因(つまり世界的な食料資源等の高騰)をムバラク政権のみに求めるのはあんまりフェアではない。


そうして思い出すのは、保守的思考の伝統的な言い回しである『風呂の水を流そうとして赤子も一緒に流してしまう』のに気をつけなければならないと。勿論そのより良い方向を目指すこと自体は非難できる物では決してないけども、しかし一挙に何かを変えようとして結局やり過ぎて失敗してしまう。これまでもしばしばあった「歴史的教訓」は忘れてはいけないんですよね。

*1:ジミー・カーター - Wikipedia

*2:けどそれを言い出したらどの国だって同じ事が言えるわけで。アメリカどうこうというよりは、現実的な国家運営として、あまりこういう表現は個人的には好きじゃないです。この辺は今度日記でも書きたい。