「食糧危機など幻想である」という幻想

これまでも何度か書いた食糧危機のお話。日本の自給率については色々めんどくさいの敢えてスルーで。


1月の世界の食料価格、過去最高に 写真1枚 国際ニュース:AFPBB News
食料価格の高騰で貧困層4400万人増加、世界銀行 写真1枚 国際ニュース:AFPBB News

【2月16日 AFP】世界銀行(World Bank)は15日、食料価格の高騰により発展途上国貧困層が前年6月以来約4400万人増えたとする報告書を発表した。
 食料品価格は2010年10月から11年1月までの間に15%上昇し、2008年のピーク時に迫ろうとしており、食料価格の高騰が貧困層に深刻な影響を及ぼしているとしている。
 世界銀行ロバート・ゼーリック(Robert Zoellick)総裁は、声明で「世界の食料価格は危険水域にまで上昇している」と述べ、特に貧困層の拡大への懸念を示した。

食料価格の高騰で貧困層4400万人増加、世界銀行 写真1枚 国際ニュース:AFPBB News

ということで最近のチュニジアやエジプトなど、政治情勢にまで影響を与えるようになった食糧高騰で困る人びと。


そういえば半年位前に「食糧危機なんてありえない」的なお話をしている人がいましたよね。人口の伸びよりも食糧生産の伸び率は上回っているとか、仮に食糧増産が増えないとしてもそれで人口が増えるのはおかしいとか、需要が上昇すれば供給も経済原理に従って増加するはずとか。
「日本の食料自給率40%」は大嘘!どうする農水省|食の安全|JBpress
ええ、確かにそうですよね。やっぱり幾らその価格が上がったところで、世界でもっとも金持ちな国の一つでもある日本が困るほどに食糧が高騰するという事態はあまり考えられませんよね。日本やったね! 
その頃世界では「食料価格の高騰により発展途上国貧困層が前年6月以来約4400万人増えた」と。
そうした貧困国のエンゲル係数って(ちなみに日本は23%前後らしい*1)、50%を余裕で越えちゃったりしてるところも少なくない。。もしこの状況で、上記のような食料品価格の上昇が起これば、ごく当たり前に以前と同じようには食べられなくなりますよね。収入100%全部を食分野にまわせるわけではないのだから。むしろ価格上昇分を入れたら100%を超えちゃう所だってある位なわけで。彼らは当然の帰結としてより貧困に陥ることになる。


で、私たちはそれを横目に、どうせ海外から買えば済むからと問題を看過してみたり、あるいは食料資源に投機マネーを注ぎ込んでみたり、または自己防衛の為により多くの在庫を抱え込もうとしている。世界って素晴らしいですよね。そりゃゼーリックさんの、

 18日にパリ(Paris)で開幕する20か国・地域(G20財務相中央銀行総裁会議を前に発表された報告書について、ゼーリック総裁は「(G20で)食料価格問題を優先的に取り上げる必要があることを強く示している」と述べた。

食料価格の高騰で貧困層4400万人増加、世界銀行 写真1枚 国際ニュース:AFPBB News

なんて言いたくなる気持ちも理解できなくはないです。
でも別にこんなことは、わざわざ言及するほどのこともない、ごく当たり前の帰結ではあるんです。つまるところ「理論的に言えば食糧危機はおこらない」というのは真ではある。でもそれを言ったら政治に科学を持ち込んだ共産主義だって成功してたはずなわけで。人口の伸びよりも食糧生産の伸びの方が大きいからといって、常に天候に恵まれるわけではないし、崩れた需給バランスは調整されるとしても仮にそれが翌年に調整された所で「現時点で食えない人」には何の意味もないわけで、そしてそもそも食糧資源が公平に分配されるなんてことも勿論ない。


まぁ私たちって大抵いっつも同じミスを犯してしまいますよね。理論的には正しいのだから、現実もそうなるはずだと。でもそれって結局の所、金を持っている人から順番に提供される正しさ、という意味でもあるんです。買う資金さえあればその理屈は正しい。しかしそれが無ければそんな理屈は当て嵌まる事もなかったと。
いやぁ私たちの国にはお金があってよかったです。高騰して買えなくなった彼らの分を、私たちが買えるのだから。