欧州連合にある「悪平等」解消へ向けた第一歩となりうるか?

シェンゲン協定』の見直しから見る欧州連合さんちの進歩のお話。あるいは「痛い目にあって初めて動ける」という私たち日本でもよく見られるお話。なんか安心しますよね。


ギリシャ「移動の自由」危機…EUが資格停止案 : 国際 : YOMIURI ONLINE(読売新聞)
へー。まぁよろしいんじゃないでしょうか。個人的にはむしろこれってEUにとっての進歩だとも思うんですよね。

ブリュッセル=工藤武人】ギリシャが、欧州25か国が国境審査の相互撤廃を定めた「シェンゲン協定」の資格を一時的に失う可能性が出てきた。
トルコから陸路でギリシャに入り、他の欧州諸国へ移住する域外の不法移民が絶えず、ギリシャがこれを統制できないためだ。通貨ユーロの信用不安を抱える欧州は、統合理念の柱の一つ「人の自由な移動」でも、参加国の締め出しという後退を強いられそうな状況だ。

ギリシャ「移動の自由」危機…EUが資格停止案 : 国際 : YOMIURI ONLINE(読売新聞)

つまり『シェンゲン協定』がこれで後退するという向きももちろんあるんでしょうけども、しかしまた同時にこうした一種の懲罰・制裁行為というのもまた組織維持にとって必要であることも事実なわけです。ギリシャにその能力がないならば一端停止して是正させるのが正しいやり方であって、もしルールに違反しても何ら罰せられないのであれば一体何のために権力はそこにあるのかと。
その意味でこれまでの『欧州連合』ってあまりにも理念が先行しすぎて、そうした逸脱行為やルール違反を咎めることができない、いわゆる『悪平等』な状況に陥っていたんですよね。あまりにも各国の平等を重視し過ぎている為に、結果的にルールを守る国と破る国との公正ささえ犯されている。皮肉なことにこうした構図はそれが重要な事柄であればあるほど、国家主権の名の下に保護されてきてしまったわけです。まぁこんなこと今更な話ではありますが。
というかそもそも今回の破滅的な経済危機だって、もっと強制力のある是正措置を取っていればここまでヒドイことにはなってなかったとさえ言えてしまう。かつて『財政的に健全である』基準をあまりにも厳格にし過ぎてしまった為に、そしてそれを破ったとしても何のペナルティもなかった為に、という所に彼らの失敗の原因の多くがあったわけで。まぁそれを言ったら、本来EU加盟の資格さえ危うかったギリシャをあっさり入れてしまった時点で云々、という話になってしまいますけど。


拡大一辺倒ではなく一時的な後退に見えるとしてもしっかり是正を働きかけることができることこそが、長期的な利益になるとようやく彼らも気付いたんでしょう。そんなルール策定くらい初めからやっておけよ、という感じではありますけど、私たち含め人間誰だって痛い目にあって初めて気付くわけであります。あるいは痛い目にあってからようやく動ける環境が整うわけであります。
こうしたことを『前例』として、いつかバカな放漫財政を裁けるような所にまで進歩できるといいですね。


その意味で、欧州連合とユーロの試みは、これまであまりにも(少なくとも表面的には)上手くやってきてこれてしまったからこそ「いきなり最初の危機からクライマックスだぜ」な状況に陥ってしまったんだなぁと暖かい気持ちになってしまいますよね。それまでに何度か今回のような失敗をしておけば、あるいはその失敗を下手に隠蔽しようとしなければ、今回のシェンゲン協定の見直しの様に正しく教訓を得られたはずなのに。
生まれながらのエリートが一度の失敗で致命的に転落してしまうお話に近い気がします。悲しいお話です。