『レッド計画』の時代背景について

激しく今更な話ではありますけど、個人的な復習がてらに。間違ってたらやさしく教えてください。


アメリカには第2次大戦の数年前までイギリスを潰す計画もあった | ギズモード・ジャパン
『レッド計画』ですって。へー。まぁ一部オタクの人には欠かせない基礎知識ではありますよね。ネタとしても面白いのは解るんですけど、しかしなぜ今更このネタなんでしょうか。単純なアメリカdisと言うわけでもないでしょうし。『レッド計画』の時代背景から読み取れる歴史の教訓、という話だったら非常に興味深いです。

レッド計画の目標は、イギリス交易ルート封鎖により、世界の帝国主義国家イギリスのパワー弱体化を図ることにありました。米政府は連合国として第1次世界大戦を短期間一緒に戦った後でもイギリスと戦争になる可能性は捨て切れないと本気で信じていたんです。1776年アメリカが独立するまで迫害国だったイギリスに対する国民感情はそんなに良くなかったし、当時は大恐慌の暗い時代。第1次大戦後イギリスはアメリカに140億ドルもの借金を抱えていたのですが、経済状況が一変したことで米国内で反イギリス感情がものすごく高まっていたんですね(同じ頃、日本は仮想敵国の第1にアメリカを想定していました)。

アメリカには第2次大戦の数年前までイギリスを潰す計画もあった | ギズモード・ジャパン

……うん、なさそう。えーと、まぁ別に間違ってはいないと思うんですけど微妙にもんにょりする解説ではあるかなぁと。ということで以下適当なお話。


さて置き、当時の20世紀の初めの時期はまさに(今後私たちが直面するかもしれない時代を彷彿とさせるような)それまでの覇権国が衰退し、新しい覇権国家が勃興してきた時代でした。つまりイギリスの衰退とアメリカの勃興が決定的な流れとなった時代でもあったわけです。
リアリズム的な視点からするとこうした変化の時代にはその両国間には避けようのない衝突と競争関係が生まれるものとされています。その意味で言えば、アメリカがライバルだったイギリスに対する戦争計画を練るのは極当たり前の話だと言うことはできるんですよね。しかし当時の両国間には戦争の意志などほとんど全くと言っていいほど無かった。チャールズ・カプチャン*1さんなんかは、この20世紀の初めのアメリカとイギリス間の平和をして一部リアリズムへの反論としているほどです。
その意味で当時の国際政治的には『国際連盟』や『パリ不戦条約』などをはじめとする――「全ての戦争を終わらせる戦争」と呼ばれたWWⅠを乗り越えての――むしろまったく平和な時代だったからこそ、こうした計画は水面下でのみ進行していたわけです。少なくとも当面の(将来生まれるような日本やドイツのような)解りやすい敵国が居ない以上、明確な『敵対国』がなかったからこそ、そうした地政学上の安全保障を中心に想定することは別に何の不思議でもなかったんですよね。
まぁぶっちゃけてしまえば、それは完全に思い違いだったわけですけど。


そんな穏やかな時代は1929年のあの『大恐慌』によって終わりを告げられることになります。まずはじめに国際経済がバラバラの無政府状態となると各国はそれぞれのブロック経済に引きこもるようになり、それぞれが独善的に「生き残れるものだけが生き残れ」というような精神が世界を支配するようになった。そしてそうした空気はすぐに国際政治にも波及し、最終的に一部の国家は「戦わなければ生き残れない」な決意へと至るわけです。


この『大恐慌』を挟んだ二つの数年間って微妙に共通点があると思うんですよね。つまり、その前半は国際的に「平和な時代」だったからこそイギリスまでをも射程に入れた戦争計画が存在し、しかし逆に後半は国際的に「混沌の時代」だったからこそイギリスまでをも射程に入れた戦争計画が存在した。両者は結論としては全く同じ場所にたどり着いているけども、しかしその背景はまったく間逆であるわけです。「敵が見当たらない」時代と「誰が敵になるか解らない」時代。まぁ確かに本質的には似たようなものなのかもしれないですよね。
そんな時代だったからこそ、この有名な『レッド計画』は生まれたのではないでしょうか。