「見たいものを見ようとする」ことすら必要ないやさしい世界

昔の偉い人が「多くの人は、自分が見たいと欲する現実しか見ていない」なんて仰っていましたけど、ずっとそれが「やりやすい」世界にはなりましたよね。まぁ人類の進歩なんてそんなもんなんでしょう。


“産地偽装”は「言われなき中傷」 2chまとめサイトなどにJAグループ熊本が強く抗議 - ITmedia NEWS

 19日午前に放送された「とくダネ!」(フジテレビ系)で、東京電力福島第1原子力発電所事故の影響で福島県の農家が米を廃棄せざるを得ない事情をレポートした際、映像中に米をJAあまくさの袋に詰めるシーンがあった。米を廃棄するために、JAあまくさの使用済みの米袋に詰めたもので、使用済みの袋である印として袋には×印がついているのもはっきり映っていた。こうした使用済み米袋は、各地のホームセンターなどで販売されているものだ。
 だが午前10時ごろ、2chに「福島の農家がJA天草(熊本)の米袋に産地偽装してるのが堂々と流れる」などというスレッドが立った。スレッド内では「これは普通に売っている中古の袋」という指摘もあったが、いわゆる2chまとめサイトがこうした指摘を省き、誤認に基づく非難コメントだけをまとめ、さらに「熊本産は危険か」といったレスを強調表示するなどして不安をあおった内容の記事を掲載。この記事がTwitterなどを通じて広がった。

“産地偽装”は「言われなき中傷」 2chまとめサイトなどにJAグループ熊本が強く抗議 - ITmedia NEWS

以前から言われていた問題の一つではありますよね。所謂『2chまとめブログ』の作為的なレスの抽出はいかがなものかと。
その意味でよく批判されるような「マスゴミと批判しておきながら結局同じ愚を繰り返している」というのはかなりの部分まで正しいと言えます。彼らは結局のところ、その視聴率やアクセス数の為に、ただの事実を書くのではなく「人びとが見たいと思っている」ことを提供するという地平に至っている。だからある意味で両者が同じ場所に行き着くのは必然の結果でもあるんです。だってその両者とも同じ目的を持ち、そして最も最善の手段を選択しているに過ぎないんだから。彼らはその意味で真に『合理的』であるわけです。その目的を達成しようと考えたならば、おそらくほとんど誰もがその選択に行き着く。
数字を稼ぐ為に人びとが望んでいるものを提供しよう、と。そこに是非などない。
こうした構図は結構何処にでもあり、それこそよく社会の暗部といわれるような麻薬や売春の問題等とあまり変わらないんですよね。それは究極的に需給の問題でしかない。もし仮にこうした『偏向』を批判しようとすれば、やはりいつか見たような反論に出会うことでしょう。「欲しがっている客が居るから提供しているのだ」と。ええ、確かにその通りです。私たちは見たいものを見たいと心底思っている。


こんなことはやっぱり、それこそ約2000年昔に居たチート野郎の時代からずっと言われ続けているお話ではあるんです。
ここで重要なのは、私たちは所謂言論の自由等による素晴らしき人類の進歩によって、わざわざ『自分で見ない努力』すら必要なくなっているということなんでしょう。現代に生きる私たちは見たいものを見ようと行動を起こす必要すらない。だって向こうが頼まれなくても「これは見たくないものだよね?」と勝手に編集して届けてくれるのだから。素晴らしき編集の自由。それもやっぱり既存マスコミの時と同様に、受け手が理解してやっているならば別に何の問題もないんですけど。
twitterと陰謀論の親和性 - maukitiの日記
先日の日記で、見たくない情報を見て「それは陰謀だ!」と拒否する人びとのことを書きましたけど、その意味で彼らはまだマシなんです。だって少なくとも彼らは自分自身の選択でその事実を拒否しているんだから。しかしそれすらもやっていない人びとが存在している。彼らはその『自分で見ない努力』すらもアウトソーシングすることに成功している。確かにそれは「見たいものしか見ていない」ことさえも見ないままで居られる最強の方法であります。
そんな根源的なニーズに一部のマスコミや2chまとめブログは正しく応えているのです。なんて優しい人たちなんでしょうね。


これを人類の進歩と呼ぶかは、まぁお好きなようにすればよろしいのではないでしょうか。