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なぜ保護主義は戦争を招くのか?

今更な話ではありますけど、直接的に『保護主義』そのものによって、というわけではないんですよね。


「保護主義広がれば戦争」IMF専務理事、EU信用不安で危機感 (1/2) : J-CASTテレビウォッチ
実際、保護主義そのものがいつだって失敗=戦争に直結するというわけでは当然ないわけですよね。特に私たち日本なんて、保護主義を上手いこと使って経済成長に成功した国家、の最右翼として語られたりすることもあるほどです。まぁそんな日本を批判していたアメリカやあるいはイギリスなどヨーロッパの国にしても、かつては似たようなことをやってきた歴史があるので、その意味では何処の国も同じ穴の狢ではあるのでしょう。現在の日本だって中国や、あるいは韓国などを批判したりしているわけだし。
しかし少数派であるなら問題にならない保護主義も、しかしそれが多数派となってしまうと、自由貿易全体の効率性が低下するという直接の影響以外にも、もう一つ致命的な『空気』を醸成してしまうのです。そんな、保護主義の根底にある「自分さえ良ければそれでいい」という精神が世界の共通認識となった際に起きてしまうものについてのお話。

「1930年代と同じ道を歩んではいけない」
ラガルド「自分の国の安定や安全だけを考えて、保護主義に走る危険が残されています。1930年代、世界的な大恐慌から保護主義に走り、その後に戦争が始まった。同じ道を歩んではいけません」

「保護主義広がれば戦争」IMF専務理事、EU信用不安で危機感 (1/2) : J-CASTテレビウォッチ

よく「世界恐慌は戦争を招く」と言われていますけど確かに概ね合っています。ただより正確に書くならば、それは「戦争に走る人たち」と「戦争を看過する人たち」の両者の共謀によってこそ、起きてしまうのです。
一般に、世界恐慌がもたらした『戦争への道』はそうした二つの要因によって説明されています。経済危機の結果、国家主義ポピュリズムの台頭を招くことによる(かつての日本やドイツのような)暴走国家の出現と、そして自分の平和のみを求める弱気な傍観者たち、という二つの要因によって。片方だけならともかく、それが「同時に」起こるからこそ破滅的な結末へと至ってしまうのだと。


著名な経済史家であるキンドルバーガー先生*1は、当時の保護関税が間接的に意味しているもの、について次のように述べています。

「政治的孤立主義の、経済における現れである」

つまるところそれは保護主義そのものが悪いわけではなくて、それは各国政治家や国民たちの『気分』を反映したものであるからこそ、恐ろしいものとされているわけです。それは間接的に『自分さえ良ければそれでいい』という精神を反映してしまっている。経済分野でそんな風に考えるようになった人たちが、その先の安全保障の分野にまで進んでしまうのに大して抵抗はないのです。そして誰もが自分のことしか考えなくなった結果、コストを掛けてまで国家間の平和を維持しようとする勢力は無力化されていってしまう。


こうした構図において、保護主義の高まりが戦争を招く、というのはやっぱり正しい意見ではあります。今はまだ前者、暴走しそうな国家というものはそこまで明確には見えてはいませんけど、しかし段々と後者――事なかれ主義に走りがちな傍観者たち、というものは生まれつつあるんじゃないでしょうか。
かつてA・J・P・テイラー*2さんなんかは、第二次世界大戦前夜における当時のヒトラーの行動原理を「侵略主義というよりは、力の真空状態に付け込んだ機会主義者である」なんて言っていたりしました。こうした意見はあまり一般的ではありませんけど*3、しかしいざこうした世界的な経済危機が実際に起きてみると、その意見もあながち間違ってはいないのかなぁと少し思ったりします。誰もが自分のことに手一杯な国際関係。


しかしまぁ、ほとんど常に「世界の平和なんてどうでもいい(アメリカにお任せ)」という姿勢だった日本に生きる私たちが、こうした事態に何かいえた義理ではまったくありませんよね。(昨日の日記と全く同じオチ)

*1:アメリカ合衆国の経済学者・歴史学者。専門は、国際経済学、経済史。チャールズ・キンドルバーガー - Wikipedia

*2:イギリスの歴史家。A・J・P・テイラー - Wikipedia

*3:J・S・ナイ教授も『国際紛争』の中でかなり明確に否定しています。