核武装のドミノ

アメリカさんが「○○のドミノ」っていうとすごい負けフラグなんですけど、しかしこういう時に限って大人しくていて悲しい。


イラン、初の国産核燃料棒を原子炉に装填、核開発の進展を強調 写真3枚 国際ニュース:AFPBB News
イランが新型遠心分離機を開発、大統領は核燃料棒を研究炉に装填| ワールド| 特集 イラン情勢| Reuters
ということで、あまりビックリ仰天なお話ではなかったかなぁと。言われていた通りやっぱり「国内向け」ということの方が大きかったりするんでしょう。イランさんの国内でも色々あるらしいですし。

■米国は誇張と主張

 一方、米国務省ビクトリア・ヌーランド(Victoria Nuland)報道官は報道陣に対し、「われわれは、率直に言って、現時点で新しい進展はあまりないとみている。これは大きなニュースではない。実際のところ、これまでも話が誇張されていたように思われる」と述べ、イランはここ数か月間、核開発が進展したと強調しているが、実際には計画から何か月も遅れていると述べた。

イラン、初の国産核燃料棒を原子炉に装填、核開発の進展を強調 写真3枚 国際ニュース:AFPBB News

まぁアメリカさんがそんな風に評するのも多分にポジショントークという意味もあるのでしょうけど、しかしどちらにしても選択肢は多くないと思うんですよね。「アメリカはイランを攻撃したがっている!」なんて言う人は日本でも結構いらっしゃるわけですけど、まぁどう見てもあの前回やった『イラクの教訓』は逆のことを教えてくれているのだから。悪の枢軸国にコストを払わせてやろうと意気揚々と乗り込んだらコストは払ったのが自分たちだったというオチ。
つまるところ、予防戦争で核抑止を実現しようとしてもデメリットが大き過ぎる、と。
こうした教訓に対して「今更そんなこと学んだのかよ」という身も蓋もない突っ込みはさて置くとして、しかしまぁ実際あのブッシュさんの遺産は途方もない戦費や大量破壊兵器の発見の難しさなど、様々な教訓を残してくれたわけです。最強の解決手段である暴力(戦争)に訴えても簡単には解決できなかった……、そんな「脳筋ざまぁ」な話。もうそのデメリットが大きすぎたんだと知ってしまって簡単にはできなくなってしまった。子供の頃を思い返すとおっそろしいバカな無茶ばっかりやっていたなぁとふと背筋が寒くなる大人な感じです。
こうした構図はやはりあの1981年の『オシラク』が上手く行き過ぎたせいだと言うことはできるでしょう。核開発を狙う国はそれを地下に隠すことを覚えてしまったし、そして攻撃する側はあまりにも上手くいったので勘違いしてしまった。そんなオシラクの幻想は、かくしてイラク戦争によってようやく打ち破られたわけですけど、じゃあ代わりに一体どうしたらいいんでしょうね? 



ともあれ、そうは言ってもじゃあイランの核武装によって『核の平和』なんて未来がこのままあの中東地域に訪れるかというとやっぱりそういうことも――少なくとも短期的には――まずないのでしょう。
核保有国であるが故に焦るイスラエル - maukitiの日記
先日の日記でも書きましたけど、その平和と均衡はお互いに第二撃能力が確保されてこそ、実現されるわけです。確実な報復手段があってこそお互いに手詰まりになるのであって、それが怪しい状況ならばむしろ「先に撃ってそれを叩き潰せばいいんじゃないか」という先制攻撃へのインセンティブが増大するのです。かくして出来たばかりの小規模な核兵器は、必然的に地域の不安定を招いてしまう。特にイスラエルなんて『サムソン・オプション』なんていう「自分が撃たれる位なら道連れに全員ぶっ殺す」という戦略を明確に持っているわけです。そこにイランが持ったとなると、以下略。


そんなイスラエル自身はこれまで、ほぼ確実に核兵器を持っていると認識されているにもかかわらず、しかし公然と核保有宣言をしていないのにはそういう理由があるからなわけです。勿論それは欧米への配慮という面もあるのでしょうけど、しかしそれ以上に近隣他国を刺激したくない、という思惑もそこにはあったのでした。
しかしこうしてイランがゴールに辿り着きつつある現状、それも怪しくなってきたわけです。今後の展開としては、もしイランが公然と核保有宣言をした場合、イスラエルは一体どういう態度に出るのか。
先制攻撃というのは最悪のシナリオの一つではありますけど、しかしイランに触発されたイスラエルが『公然と』それに続くのもまた一つの最悪のシナリオでもあるわけですよね。そうなると両者と(緩やかに)敵対しているサウジアラビアなどは一体どういった態度に出るのか。またアメリカはイスラエルと今後どのように付き合っていけばいいのか。もしそれでアメリカという重石が取れた場合イスラエルが大人しくなるのか。あとIAEAやNPTの存在意義だとか。
がんばれ偉い人。