こんなはずじゃなかった「ポスト人種差別時代のアメリカ」

黒人差別問題のコインの裏表なお話。


米国に「ポスト人種差別時代」は訪れているのか? 写真1枚 国際ニュース:AFPBB News
しかし実際以前から――それこそオバマさんの大統領就任が現実的になった頃から――言われていたお話ではあるんですよね。人種問題はオバマ大統領の誕生によって新たなステージへと進む事になるだろう、なんて。
そしてそこで重要なのは、それが必ずしもポジティブな影響ばかりではなく、むしろネガティブな影響も多分にあるだろうと。

 2008年の大統領選でバラク・オバマBarack Obama)氏が勝利してから多くの米国人が、米国はついに人種差別を克服したと思ってきた。「ポスト人種差別時代」の米国の夢を語る声も聞かれた。しかし、ポスト人種差別時代などというものが実際に存在したのだろうかと、ニューヨーク州立大学(SUNY)バッファローロースクール(Buffalo Law Schoo)のアセナ・ムティア(Athena Mutua)教授は疑問を呈す。

 オバマ氏の大統領就任を多くの米国人が歴史的意義のあることとしてとらえ、人種問題はもはや大きな懸案事項ではないという幻想を生んだと同教授は指摘する。当時、選挙戦でオバマ氏を支持した白人層が誇張されて報道され、米国は一歩前進したという印象を与えたという説明だ。「オバマ氏が幅広い層から支持を集めているという絵が描かれたが、誇張しすぎだったと思う。オバマ氏はこの国の白人の過半数の支持を得たわけではない。非常に多くの白人、ではあったが、過半数ではない」

米国に「ポスト人種差別時代」は訪れているのか? 写真1枚 国際ニュース:AFPBB News

「人種問題はもはや大きな懸案事項ではないという幻想を生んだ」というのはまぁ同意するしかありません。


ともあれその存在自体にこの大学教授は疑問を呈しておりますけど、それはまぁ「人びとが夢見ていたような」ポスト人種差別時代が来なかったのであって、やっぱりそれなりの人種差別時代以後というものは到来していると思うんです。人種問題が一挙に解決するなんてことは当然なかったけども、しかしはじめの一歩として。
オバマ大統領の誕生によって、いつまでも社会的弱者のままである、という意識を白人だけでなく黒人自身のそれも少なからず変化させた。某牧師の人が「私には夢がある」なんて言っていましたけど、少なくともそのビジョンの一つを現実的に提示してみせたわけだし。
つまりかつての時代のようにある種の『禁忌』とされていた黒人批判が、むしろ解禁されたというお話ではないのかなぁと。それを復活や継続というのは微妙にズレていて、むしろ黒人を合衆国大統領に選出させたという状況こそが、変化をもたらしている。平等だからこそ言いたい事を言ってやるのだ、という一部白人たちのこれまでの鬱屈と共に。
概ねこうした揺り戻しは健全な方向と言えるのではないでしょうか。それはまぁ確かに人びとが夢見ていた、白人と黒人が手と手を取り合って、という優しい夢とは全く違う光景ではありますけど。


かつてのような単純な、加害者としての白人と、被害者としての黒人、という歪な構図をオバマ大統領は終わらせた。あるいはその大義名分を提示した。それはやっぱり長期的には正常化への一歩とはなるのかなぁと。ここでまたその揺り戻しに怯んで、かつての時代のようにオバマさんがうっかり「白人が加害者だ!」とかやると簡単に逆戻りしてしまう薄氷の道程ではあるのでしょうけど。
その意味で「ポスト人種差別時代のアメリカ」はやっぱりやって来ているのかなと思ったりします。それはやさしい夢物語ではなくて、厳しい現実的な状況として。