駆り立てるのは野心と欲望

そんな典型的な『共有地の悲劇』と化したウナギさんのお話。


朝日新聞デジタル:米、ウナギ輸出入規制を検討 国際取引「保護が必要」 - 経済
米 うなぎ取引の規制提案検討 NHKニュース
ということで微妙に乗り遅れましたけどウナギがヤバいそうで。どう見ても食べ過ぎです本当にありがとうございました。
これがもし何の役にも立たない動物であればそうはならなかったでしょう。しかしウナギは美味しいからこそ、彼らは絶滅の危機に瀕してしまう。(食べちゃいたいくらい)愛してるっ! - maukitiの日記以前の日記でも書きましたけど、食料や衣服など、いやぁ人間に好かれてしまうってほんと災厄のようなものですよね。
それでももしウナギが家畜化される位には単純な生き物であればそうはならなかったでしょうけども、しかしそれもなかった、と。

 不漁などによる値上がりが続くウナギについて、米国が野生生物の保護を目的としたワシントン条約による国際取引の規制を検討している。米国などに生息するアメリカウナギに加え、日本や中国などで食べられるニホンウナギも対象に含まれる。実現すれば、消費量の多くを輸入に頼る日本市場への影響が大きい。

朝日新聞デジタル:米、ウナギ輸出入規制を検討 国際取引「保護が必要」 - 経済

ともあれ、このお話で救いようがないのは、だからといってウナギのそれを単純に『規制』によって保護しようとしてもおそらく上手くいかないだろう、という点であります。そこに価値がある以上――そして皮肉にも規制が成功すればするほど逆に希少価値は上昇していく――密漁のインセンティブが生まれることを防ぐのは不可能であるから。
結局のところ――もう何度も私たちの歴史によって証明されたように――『共有地の悲劇』はそんな政府による規制だけじゃ解決しないんですよね。ついでに言うと、よく意識の高い皆様が仰っている「お前らはウナギを食いつくす気か、この愚か者どもめ!」とウナギに熱狂する人たちを一方的に断罪し、上から目線で非難してもやっぱり何も解決などしないのです。
んなもので解決するならば、経済学におけるコモンズの悲劇はここまで有名にならなかっただろうし、そもそも絶滅する動物なんて初めから生まれていないわけで。解っていてもやめられない、からこそ悲劇であるのです。


つまり、こうしたお話が「悲劇」と称されるのは、こうした希少動物の乱獲をめぐって、それを保護しようとする誘引が個人にはまったくないからであります。故にそれは『悲劇』と呼ばれてしまう。そこで乱獲に走る彼らは決して愚か者というわけではなくて、むしろ合理的・経済的に見て「正しい」方向に動くからこそ、しかし全体として失敗してしまう。
そりゃそうですよね。だって自分が(資源保護の為に)獲るのをガマンしたって、他の誰かがそれ以上に獲ってしまえば意味はないんだから。かくして誰もが我先にと正しく乱獲に走ってしまう。いやぁどうしようもありませんよね。彼らは先が「絶滅」という未来が見えないバカだからなのではなくて、むしろ未来を見た上でまだ残っている今だからこそ突っ走ることになる。人間ってすばらしいなぁ。


ちなみにこうした『共有地の悲劇』を解決し、資源を効率的に運用する手法としては、一般に「所有権を明確にする」こそが正解であるとされています。彼らが乱獲に走ってしまうのはそうする以外に正解がないからなわけで。だってそうする以外に所有権を主張する事ができないんだから。いつだって、自分が所有するには殺す以外にないことこそが、乱獲を生む誘因なのです。
じゃあ一体どうやって海を広大に泳いでやってくるウナギにそんなものを設定すればいいの?
ということで今後のウナギさんの将来に対する個人的な予想としては、絶滅するか、家畜(養殖)化に成功するか、あるいはその前に人間がウナギの味を忘れるか*1、の三択だと思います。もちろんもしかしたら日本人(と同時に韓国人や中国人も)が一気に目覚めたりして一発逆転もあるのかもしませんけど。……すごい無理そう。
ウナギが持つ特性――「高級食材としての価値」「広範囲での回遊性」「西欧圏で大々的な保護運動が起こりそうにはない」という点がある以上、おそらく政府管理や今回アメリカが主導しようとする国際的な規制体制は上手くいかないのではないでしょうか。最初にも書きましたけど、規制が上手くいけば上手くいくほど密漁することのリターンは大きくなってしまうのだから。かといってウナギはああした人たちの美意識を惹きつけるほど「美しい」というわけでもないし。
周辺各国が共有する国際水産資源について。まぁ難しいお話ですよね。



がんばれウナギを愛する人たち。

*1:ちなみにウナギと同様の性格を持つクジラなんかが絶滅を逃れられそうなのは、結果としてこの「人間にとって価値がなくなった」のパターンだと思います。