リスクなき戦争行為と正戦論の限界

新たな『正戦論』を要求される私たち。


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まぁ色々めんどくさいお話ではありますよね。

 「さらに、正当に、倫理的に戦争をしかけるためには、公に宣戦布告するのが正戦論の基本的前提だ。秘密の戦争はできないはずだ。ドローンを使った攻撃を米国は戦争と呼んでいないが、事実上、これは戦争なのである。米国には戦争権限法というものがあり、大統領は戦争を始めたり継続したりするのに議会の承認を得る必要がある。しかしこのプロセスは頻繁に無視されている。ドローンは我々の民主主義に組み込まれたこうした抑制と均衡のシステムを回避することを可能にしたのだ。大統領とCIAは議会や市民の監視のないまま、自分たちのミッションを遂行している」

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うちの日記でもオバマさんの無人機による(事実上の)暗殺大好きっぷりを色々書いてきたりしましたけど、しかし特に冷戦以降はリベラルである民主党がこうした方向へ走ってしまうのは色々と考えてしまうお話ではあります。クリントンさんの巡航ミサイル使いまくりだとか、オバマさんの無人機使いまくりだとか。一般に『軍』と関係の深い共和党よりも、そうではない民主党の方が結果としてこうした『リスクなき戦争行為』へと向かってしまいがちなのは、アメリカの外交政策のお話においてやっぱり面白いネタではないかなぁと。


さて置き、上記のように「大統領とCIAは議会や市民の監視のないまま」彼らが動く理由の一つとして、そもそも必ずしもアメリカ国民の多くは別にそうした他国への介入を強めるようなことを望んでいるわけでもない、という身も蓋もない点があるのでしょう。偶に「海外の出来事に無知なアメリカ人」なんてことがネットニュースでも上がったりしますよね。CNNでしか世界を知らないアメリカ人たち。実際(そのアメリカの国力・軍事力に対して)そんな彼らを無知でバカだと笑うことは確かに出来るんですけども、しかしより正確に言えば「そもそも興味がない」という方が正解に近いのでしょう。例えば日本の田舎に住む大多数の人たちが、そうしたニュースにそこまで関心がないのと大して違いはない。まぁ伝統的なアメリカの地政を考えれば無理もないお話ではあります。モンロー主義の歴史は伊達じゃないのだと。
しかしその一方で、一般的に『世界の警察』たるアメリカの政治家たちの多くは、ネオコンにしろあるいはリベラルな人たちにしろ、そういう義務を果たそうとすることにより積極的であるのです。不介入主義のロン・ポールさんがむしろ異端中の異端とされている辺り、この辺りもアメリカ国民と政治家の認識の乖離としてよく言われるお話ではありますよね。
アメリカの無数の善良な国民たちが望むことと、しかし政治家たちが望む(そしてまた多くの外国政府が期待する)ことはかなりかけ離れているのだと。
「政治的に説明責任の負わない軍事行動」の是非について - maukitiの日記
先日の上記日記でも書きましたけど、だからこそ、アメリカ大統領のほとんどはそうした有権者の声を――ぶっちゃけ無視するために――回避しようと、政治的に説明責任を負わなくても済む軍事行使を望むようになっていく。そしてその究極の解答の一つが上記無人機である『ドローン』だったと。


ただこうした現状は単純にそうした政治家たちが殊更に狡猾だからというだけでもなくて、ウォルツァー先生が仰るところの、むしろアウグスティヌス先生以来の伝統的な『正戦論』がこうした「技術進歩による極めて遠距離から行われるリスクなき戦争行為」に追いつけなくなっている、という現状があったりするわけです。もちろんそれはこれまでの技術進歩によっても幾度も起きてきたことではあります。しかし今回に限ってはほんとうにもう現実が理論を越えてしまった。だからこそ、なし崩し的に彼らの(準)軍事行動は容認されてしまってもいるのだ、と。
現状のような無人機などを従来の正戦論に当てはめて考えること自体無理があるのです。だってそもそも伝統的正戦論においてはそんな状況を想定していないのだから。やっぱりその根本理念には「撃っていいのは撃たれる覚悟のある奴だけだ」に代表されるような、ひとつの命でもう一つの命をあがなう、というようなある種牧歌的な戦場の風景がそこにあるわけで。故に、その二つの犠牲から生まれる価値とは一体なんなのか、つまり「正しい戦争とは何か?」と。
そんな所に無人機だのロボットだのを持ってきても、まぁ何の抑止力にも政治哲学としても機能しないのは、ある意味当然のお話ではありますよね。


かくしてこうした分野で最先端をひた走るアメリカだからこそ、そうした問題でやりたい放題やることになっている。しかしそのやりたい放題といっても、そもそもルールを定めるにはそこに一定以上の「参加者」が必要なわけで。例えば、最初に原爆を生み出したアメリカさんなんかがあっさりぶっ放してみせたように。しかしそれもその後暗黙のルールが形成されることによって、核兵器はそうではなくなっていったのでした。
だからといってアメリカが「無人機使用の国際的ルール」を勝手に、一方的に決めても、きっとそれはそれで非難轟々となることは間違いないでしょう。
ということで、やっぱりアメリカ以外のプレイヤーたち参加するまでは現状のままだろう、という上記専門家の予測は正しいのだろうなぁと。果たしてそれは一体いつのことになるんでしょうね?