食糧危機2.0

「足りないから買えない」ではなく「足りているのに買えない」という時代まであと何マイル? なお話。


APEC:食料の輸出規制 回避一致も実効性不透明− 毎日jp(毎日新聞)
食料の輸出制限自粛で合意 APEC閣僚会議  :日本経済新聞
ということでAPECでこんな声明が出されたそうで。確かに言っていること自体は正論ではありますよね。
逆説的に、こうした声明を出さなくてはいけない、という時点で現状を正しく示唆してもいるわけで。まさにそういう風に保護主義や政治的圧力の一環として行う国がいるからこそ、こんなことを言い出さなくてはいけなくなっている。外交的配慮の為に敢えて名指しで言うわけには当然いきませんけど。

 【ウラジオストク丸山進】5日開幕したアジア太平洋経済協力会議(APEC)の閣僚会議は、初日の討議で世界経済の懸念材料である穀物価格の高騰の抑止に向けて、加盟国・地域が食料の輸出規制を回避することなどで一致した。生産国の輸出規制が価格高騰に拍車を掛け、途上国で暴動が起きた08年の反省も踏まえ、6日採択する閣僚宣言にこの方針を盛り込む。ただ、干ばつの影響が出始めたロシアなどは小麦の収穫量が大幅に減少すれば、再び禁輸に踏み切るとの見方もあり、実効性に不透明さがつきまとう。

 「世界の穀物生産の半分以上を占めるアジア太平洋地域が、国際社会全体の食料安全保障の取り組みを主導すべきだ」。玄葉光一郎外相はこの日の討議で力説した。

 今夏は米国の干ばつなどを背景に、トウモロコシや大豆の国際価格が過去最高値に上昇。4日のシカゴ穀物市場では、直近の取引の対象となる大豆相場が一時、1ブッシェル=17.9475ドルを付け、過去最高値を再び更新するなど、高騰に歯止めがかからない状況だ。

APEC:食料の輸出規制 回避一致も実効性不透明− 毎日jp(毎日新聞)

しかしまぁやっぱりそれはかなりの面で紳士協定でありますので実効性がないというのはその通りなのでしょう。しかしだからといって「実効性のある」取り決めなんてできるはずがありませんよね。だってまさか「自分たちの国民が飢えてもいいから輸出しろ」なんて言えるはずがない。まぁそれを見事にやってみせた結果が、大英帝国時代のアイルランドやインドで起きた大飢饉だったりするのでした。イギリスこわい。現代でそんな宗主国が植民地に対するような振る舞いをできるはずありませんよね。


この辺りのお話の先例としてはやっぱり『石油ショック』のそれがあるのでしょう。特に第一次の時は<アラブ石油輸出国機構>は政治的な脅迫材料として、その石油禁輸という手法を用いたわけであります。そして見事にそれは私たちの生活を直撃した。石油が足りないから買えなくなったのではなくて、石油があるにもかかわらず買えなかったあの時。石油で起きた事が食糧では起きないなんてとても言えませんよね。
そして、更にめんどくさいことにぶっちゃけ『食糧』という資源はそれよりもずっとめんどくさいお話になるんだろうなぁと思っています。石油資源であればかなりリアルタイムで生産調整(ついでに口先介入も)をすることもできますけども、しかし農業であれば本質的に一発勝負で豊作と不作の波が絶対に生じてしまうじゃないですか。だからといって余裕を持たせ大量に作りすぎて廃棄しても文句をつけてしまうエコな心を持つ美しき私たち*1。もちろん種類によって貯蔵することもできますけども、しかしそれだってコスト増と品質の劣化は避けられない。じゃあ一体どうしろっていうんでしょうね?
だから食糧=農業分野でのこうしたお話は絶対に避けられないのだろうなぁと。その意味で、国際関係における食糧危機はその他の資源危機よりもずっと身近な所にあるんじゃないかと個人的には思っています。戦争などの政治的対立が起こるまでもなく、(今起きているように)文字通り『天災』によって危機が導かれてしまう。なのでこのお話はきっと今の農業が完全に工業的なシステムに取って代わられるまで、当分の間は付き合い続けていかなければならないんだろうなぁと。マルサス的な食糧危機ではない、いつか「政治による不平等」を解決をできるその日まで。
まぁまったく来る気がしませんけども。


がんばれ農業関係者たち。