ネオコンは衰退しました

まぁ9・11直後の一時期を除いてほぼ衰退しっぱなしだっただろうと言われるとその通りなんですけども。


【図解】「イスラム冒とく」映画めぐり標的となる米大使館 写真1枚 国際ニュース:AFPBB News
ということでアメリカさんの大使館が大変そうであります。気がついたら反米デモが北アフリカから中東そして南アジアまで広がる世界的な一大ムーブメントに。私たち日本の大使館も中国や韓国で似たような事態に偶になったりしますけど、しかしさすがのアメリカさんちはスケールが違いますよね。圧倒的な世界規模感です。


アラブ騒乱の元凶となった「ビデオ映像」の謎 | 冷泉彰彦 | コラム | ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト
さて置き、冷泉先生のコラムでは騒ぎになっている『反イスラム映画』の背景に関する陰謀論の可能性として、イスラエルアメリカ保守層のそれがあげられたりしていますけど、個人的にはあまり賛成できないかなぁと。

 仮にビデオの制作と、リビアなどでの扇動を含めて、「インテリジェンス業界」が仕掛けているとしたら、その背景にあるのはどんな勢力なのでしょうか?

 1つはイスラエル系のグループです。イスラエルでは、イランの脅威ばかりが取り沙汰される中で、成熟国家ならではの反戦運動の動きなどもあるわけです。そんな中で、「イスラエルの真の脅威はエジプト」だという立場から「コプト派の視点からのアンチ・イスラム」というビデオを突きつけることで「同胞団系のモルシ政権」は「原理主義」だということを暴露してやろう、そんな動機を持つグループが存在する可能性はあるでしょう。

 もう1つは、アメリカの保守派です。「イスラム教徒の父を持つオバマが、アラブの春などを支持」していることに怒りを感じ、「オバマやヒラリーの工作の結果がエジプトの原理主義化」だということになれば、オバマ政権を倒せるというような考えを持って、こうしたビデオで扇動してみたくなる、そんな勢力が存在するかもしれません。

アラブ騒乱の元凶となった「ビデオ映像」の謎 | 冷泉彰彦 | コラム | ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト

むしろ今回の事って「アメリカの中東離れ」を加速させるんじゃないのかと。いやまぁそれを言うと「逆効果だということに気付かずにやっているバカな彼ら」という見方も出来てしまいますので、だから万能過ぎる陰謀論云々を持ち出すのはあまり好みではないんですけど。
そうした思惑は別としても今回の出来事の帰結としては、アメリカの人びとにとってより中東への幻滅さが増しただけ、というオチになるんじゃないかなと思います。
元々、ブッシュ政権の失敗を目の当たりにしてチェンジしたかったオバマさんはそうした考えが強いわけですよね。ネオコンな人たちが夢見ていた「中東にジェファーソン流の民主主義を打ち立てよう!」なんてバカげた目標はさっさと捨て去るべきだ。だからこそ彼は多少無理矢理であろうともイラクアフガニスタンの戦争にケリを付けようとして――そしてある程度まではそれを実現しているのです。名実ともに「戦争を終わらせた大統領」として。
オバマさんのそうした態度は一連の『アラブの春』でもそれなりに一貫していて、だからこそ騒動の最中も常にアメリカは一歩引いた態度――批判者からすれば「傍観」とさえ呼べる位に――でありました。そんな前政権の反省からの戦争を避けようという気持ちが、結果として「戦争じゃないからセーフ」という所に行き着いているのは何と言うか色々苦笑いするしかありませんけど。


ただそうは言っても、やっぱりアメリカさんにとっては中東は簡単に捨てる事のできない地域である事はやっぱり間違いないんですよね。幾らシェールガス革命があるからといって、しかし『カーター・ドクトリン』という形で明確にされているように「ペルシャ湾岸の支配権を握ろうとする外部勢力の試みは、いかなるものであれ、アメリカ合衆国の死活的国益に対する攻撃と見なされ、必要ならば武力行使を含むあらゆる手段によって排除される*1」というのは今尚アメリカという国家としての重要な大戦略の一つでもあるわけです。石油・天然ガスの安定供給こそが、米国が絶対に守るべき一線であると。
そうした「ペルシャ湾岸の覇権国家誕生の阻止」という目標とってはぶっちゃけ別に中東の民主化なんてどうでもいいんですよね。むしろ現状では障害になっているとさえ言えるかもしれない。ただまぁ国家の安全保障議論の歴史の常として、やっぱりそれは段々と目標の拡張現象を起こしてしまうものなので仕方のない面はあるのかもしれません。最終防衛ラインを守るために、更にもう一歩前へ、そしてもっともう一歩前へ、より安全地帯を大きく広げようとしてしまう人たち。
だからこそ、ペルシャ湾の安定の為に民主国家を打ち立てるべきだ、というのはまぁ(実現性を無視すれば)それなりに理解できる論理展開ではあります。
ちなみに私たち日本だってかつては列島から朝鮮半島そして満州へと安全地帯をより大きくしようと頑張ってしまって、最終的にそれはもうヒドイ目にあったのであまり笑えませんよね。


ともあれ、どちらかといえばやっぱり今回の件はそうした拡張現象とは逆方向に繋がるんじゃないかなぁと。
もう中東の騒ぎに関わるのはコリゴリだ、というきもち。まぁ確かにそれはある種の解決策ではあるんですよね。まさにそこに米軍が乗り込んでしまったからこそ、反米は勢いづいてしまった。サウジに駐留したせいでビンラディンさんの怒りが有頂天になった、というのはもうかなり定説として言われるお話でありますし。ついでにイランの核兵器開発の問題にしてももうにっちもさっちもいかなくなってますし。
ならばもう適切な位置まで引いて傍観者を決め込んだ方がいいのではないか、なんて。
まぁ現実にそれをやるには米国内でのイスラエルロビーな人たちとの争い次第なんですけども、しかしそれでも米国内の政治的バランスの変化を招くのではないでしょうか。


ということで、今回の件は数年前からよく言われるようになったミアシャイマー先生のような『オフショアバランシング(地域外からの均衡)*2』推しの人たち大歓喜、というオチになるのかなぁと。