科学と魔術と政治経済が交差するとき、物語は始まる

科学者と市民と政治家(官僚)たちによる地震予知についての群像劇。


地震予知の失敗で禁固6年ってあり? | ワールド | 最新記事 | ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト
地震予知できなくなる…実刑判決に科学界が反発 : 科学 : YOMIURI ONLINE(読売新聞)
ということで数日前に大盛り上がりしていたイタリアさんちの「地震予知失敗による有罪判決」云々について。えーと、まぁ、いつものごとく「オメガバカ」で終わるお話――なのかと思ったら、話はそう簡単ではないそうで。
ラクイラ地震 禁錮6年の有罪判決について | Welcome to OKI's Website
その辺りの経緯については上記サイトが参考になりました。

さて,日本の多くのメディアが間違えた見出しで報告している,訴追の理由についてここで書いておきたいと思います.『予知失敗で禁錮6年』などという表現のまま,新聞やテレビで報道されていますが,予知の失敗ははじめから告発理由に入っていません.告訴された理由は,『地震が起きる前に,安全宣言を出したから』です.

ラクイラ地震 禁錮6年の有罪判決について(3) | Welcome to OKI's Website

つまり,行政はパニック状態の市民をおさめるために,はなから安全情報を出すつもりだったこと,そしてそれは行政判断ではなく,科学者からのお墨付きという形で遂行することを,委員会を開催する前から決めていたのです.

ラクイラ地震 禁錮6年の有罪判決について(4) | Welcome to OKI's Website

だからこそ有罪判決は出されることになったのだと。まぁ確かにそれは悪質ではありますよね。その意味では――有罪は行き過ぎだとしても――そうした行政側の『暴走』を止められなかった科学者たちの責任はやっぱりあるのかなぁと。
ただ、そんな科学者たちの不作為は当然批判されるべきなんでしょうけども、しかしその一方で、行政側と科学者たちのパワーバランスという意味では「科学者たちが抵抗すればいいじゃない」というような単純なお話ではないんですよね。
『御用学者』といってしまっては身も蓋もありませんけども、しかし元々莫大な研究費が掛かる上に民間転用が難しい地震研究って元々かなり政府という「お金を出す側」が強い構図になっているわけです。特に「地震予知の研究なんてマジ無意味だから*1」論で有名なロバート・ゲラー先生は、他の分野でも多々あることだが地震研究の分野では特に「研究補助金と引き換えに予測の公表を要求されることがあり、それに屈してしまう科学者は少なくない」と仰っています。
その意味で、今回のイタリアの彼らが上記委員会で抵抗できたのかというと、やっぱりそれは難しかったのだろうなぁと。


地震学者たちの悲哀。まぁ人命が掛かっている以上それで済むお話ではないのは確かに仰る通りなんですけども、しかしこの問題を少し考えてみただけでも、ぶっちゃけ地震研究そのものに関する構造と同じくらい複雑系でカオスだよなぁと思わずにはいられません。

  • 研究者たちの「完璧な予知の不可能性」と「予算獲得」のジレンマ
  • 私たち一般市民の「地震被害から逃れたい」という素朴で切実な欲求
  • 行政側の警報発令による「避難の為のコスト」「(現状の精度だとほとんど場合でこうなる)起きなかった時の経済的被害と訴訟リスク」への恐怖

かくして三者三様のそれぞれのプレイヤーたちによる思惑――科学と魔術と政治経済が交差するとき、地震予知をめぐる物語は始まるのです。


僕にはこの絡まった糸を解決する方法はさっぱり思いつきませんので、誰か偉い人がんばってください。