二国の距離の概算

『大いなる幻想』の世界に今尚生き続ける私たち。


http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/36523
ということで騒乱を経てある種の均衡状態へと再び回帰した日中関係のお話。

 消息通の中国のあるアナリストは、紛争は回避できると今でも考えている。公式に認められていない暗黙の「妥協」が実質的には既に存在し、中国は3島の「国有化」を、日本は中国がたびたび島付近を訪れることを認めざるを得ない状態に至ったというのだ。

 もしそうなら、戦争よりはるかに良いことだ。ただし、両国とも実行に移すことなく、自国が島々を支配しているというふりをしなければならない。これ以上誤解や誤算を招きやすい状況も想像しにくい。

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/36523

紆余曲折ありながら結局こうした所に落ち着きそうなお話。確かに戦争よりは何倍もマシですが、しかしステージは一段階上がってしまったのは間違いないのでしょう。
しかしまぁ見事に『大いなる幻想』パターンそのものではありましたよね。かつてノーマン・エンジェルさんが仰っていた「お互いの国の経済関係が深化している以上――その経済的合理性から両国が戦争になるような事態はありえない」という平和関係の理想像。ところが、蓋を開けてみればそんなもの別にまったく抑止力にならなかった。1930年代に証明されたことは、やっぱり現代でも変わっていなかった感。
経済で戦争は防げるか――『The Costs of Conflict』 - リアリズムと防衛ブログ
まぁこの辺のお話はお馴染み『リアリズムと防衛を学ぶ』さんの所により詳しく面白いお話があるので見ていただくとして。
――しかし今回の一連のことを振り返ると、中国財界の反応はまぁ当然予想できた想定の範囲内として、一方で日本のそれすらもやっぱりこうした対立激化の抑止力にあまりならなかった、というのは教訓として覚えておくべきなのかなぁと。「経済関係こそが大事なのだから、島の一つや二つどうでもいいではないか」という声は確かに一部ありましたけども、それでもやはりその声はメインストリームには決してならなかった。


日銀総裁、日中関係「貿易や観光など経済面に影響出てきた」  :日本経済新聞
結果として見れば、不況にあえぐ現代日本に生きる私たちですら、しかしそうした経済的不利益はごく普通に許容されてしまった。中国が悪いのだし、ついでに日本の政治家もバカだから仕方ない、と。まぁ確かにそれは(少なくとも大多数の日本人にとっては)概ね真実ではあるのでしょう。背に腹をかえることもできなかった私たち。
あの大東亜戦争以来何も変わっていないだけだ、と言ってしまっては身も蓋もありませんけど。


『大いなる幻想』の原典たるあの頃もこんな感覚だったのかなぁと色々考えてしまうお話ではあります。もちろん両者を単純に比較するのはアレではありますが、日中間の緊密な経済関係は結局のところ、小競り合い「だからこそ」止められなかったのか、それとも小競り合い「ですら」止められなかったのか。


世界が平和でありますように。