フランス外交政策のとても「現実的な」優先順位

フランスのマリ介入が暗黙の内に突きつけるもの。



社会党が軍事介入する皮肉 | 池上彰 | コラム | ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト
「国際情勢のパラドックス」ですって。まぁ昔から言われているお話ではありますよね。もちろんそれが全てだなんて言うつもりもありませんが、よりハト派であるほど「正義の」戦争をしてでも平和を追求しようとしたり、逆にタカ派であるほど勢力均衡と現状維持を目的として「偽り」の平和を黙認したりする。まぁ世の中白黒ハッキリしないお話ばかりであります。故に面白いとも言えるんですけど。

相対主義的な政治が蔓延する世界で、現在はフランスだけが、民主主義は絶対的で不可侵な権利だと守護役を買って出ている」

「世界のどの国も行動を起こそうとしないなかで、フランスが行動する意欲を見せたことは間違いない。フランスの戦闘機やヘリコプター、空挺部隊が火ぶたを切ったのは、アフリカに民主主義と平和を広めるための戦いなのだ」

 いやあ、読んでいて頭がクラクラしてきます。「フランス」を「アメリカ」に置き換えたら、2003年頃にアメリカのネオコンが言っていたことと、そっくりではありませんか。ネオコンにそそのかされてブッシュ大統領イラクを攻撃し、どんな目にあったかは、ご存じの通り。この記事の勢いだと、オランドはまるでフランス版ネオコンではないですか。

社会党が軍事介入する皮肉 | 池上彰 | コラム | ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト

ともあれ、マリ介入についてあのアメリカによるイラク戦争と比較して見た場合、大変愉快な話であるのは仰るとおりですよね。まさにイラク戦争反対の最右翼がフランスだったわけで。国連でも常任理事国として徹底的にフランスは反対したのであります。
ちなみに、21世紀に入ってからの独仏の蜜月関係がそのまま欧州連合の深化に繋がっていて、その関係性のメルクマールとなったのが、あのイラク戦争に対しての独仏一致した強烈な反対行動でした。まさにあの協力関係は独仏カップルの一つの象徴であると同時に、少なくない人に「アメリカの終わり」を予感させる光景だった。フランスはドイツという仲間が居たからこそ、一つのヨーロッパとして、ああして決然とアメリカ「ノン」を突きつけることができたのです。ところがそんな独仏間の蜜月関係が終焉を迎えつつある現在、こうしてフランスがかつてのアメリカと似たような振る舞いを見せているのは、なんというか皮肉な構図だなぁと思ってしまいます。一般に語られる悪の帝国としてイメージとは裏腹に、むしろ平和主義者としてのドイツの役割。


http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/37218
さて置き、そんな『イラク戦争』もそうなんですが、やっぱり個人的にはフランスのマリ介入についてより興味深い対比となっているのがシリアとの比較だったりするんですよね。
――彼らはつまり、シリアは見捨てたが、しかしマリは見捨てなかった。
もちろん「どちらも」見捨てているアメリカや他のヨーロッパ諸国、そして当然何もしない私たち日本に比べれば、それでもフランスはまだマシと言えるのかもしれません。ところが、そんなフランスでさえ、こうした対応の差によってその優先順位があることを明確に示唆している。
まぁこちらも今更過ぎる当たり前の話ではあります。一般に国家の外交政策は多様な目的の下にある。決して『人道主義』だけで動くわけでは決してないように、それと同じくらい、あるいはそれ以上に『安全保障』や『経済的利益』だって重要なのです。
そして、今回フランスさんちはまぁ見事に、その視点からシリアを無視して、そしてマリに介入して見せた。
いやぁとても現実政治なお話ですよね。


ただ、じゃあそれがそこまで悪いことなのかというと、やっぱりそうではないと思うんです。人道主義ではなく身も蓋もなく現世利益によって行動する人たち。だからこそ真面目にやる気になっている。
それはおそらく介入の目的として見た場合、決して手放しで誉められるものではないけれども、しかしその点こそが彼らの覚悟を示している。まさのその逆側にあるのが、あのソマリアを初めとする「人道的な」介入が招いた、つまり失敗した介入の教訓でもあるわけだから。そんな底の浅い覚悟によって導かれた介入は、人的・資金的な被害があると、すぐに挫折することになってしまう。そして残されるのは中途半端な介入が招いたよりカオスな惨状だけ。
それならば、初めから何もしないほうがマシだっただろう、というのは確かにその通りなのです。


その意味で、上記歯の浮くようなフランスさんの建前としての言葉とは裏腹な――シリアは徹底的に無視する一方でマリには全力で介入するという――まったく「隠せていない」現実的な態度の方が、より彼らの本心を正しく反映しているのかなぁと。
人道主義としてではなく、現実政治の帰結として軍事介入するフランスの正しさ。国家安全保障と、経済的利益のためにこそ。故に彼らは本気となっている。それはまぁ、実はそこまで悪いことでもないのかなぁと。


がんばれフランス。