欧州大陸の勢力均衡は崩壊しました(140年ぶり2度目)

気付けばライバルたちは退場し、ただ一人ブリュッセルの沼に立ちつくす。


キプロス財務相「大口預金者の損失、預金の最大40%に」 - WSJ
どこかの口だけな人たちとは違って、マジでガチで「無慈悲な」国家たるドイツさん。最大40%が預金からもっていかれちゃう可能性なんて、キプロス国民の預金なんて知ったことではない、という感じがとても伝わってきますよね。無慈悲こわい。


http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/37447
ただまぁこうした「ドイツ一人勝ち」の状況って、やっぱり予め予測されていた必然の帰結である、ともいうことは出来るわけで。
まさに1871年ドイツ統一に際してディズレーリが「つまりそれはドイツ革命であり、それはヨーロッパの(勢力均衡という)外交的伝統を完全に破壊するだろう」と述べていたあの頃から構図としてはまったく変わっていない。1990年の東西ドイツ統一の際も(当事者であるドイツの苦境を他所に)同様のことが言われていたわけで。
ドイツが本気を出したらヨーロッパまじヤバい。
――だからこそ、ヨーロッパのプレイヤーたちはその影響力を抑止しようとあれやこれやと努力を続けてきたわけです。その到達点の一つである欧州連合。ドイツへの『拘束具』としての欧州連合。これでドイツは名実共に「欧州の一員」となるはずだった。

 何とも皮肉な話である。統合を目指して1950年代から続けられている「欧州プロジェクト」全体の最大の目的は、ドイツは強大すぎて近隣諸国と気持ちよく共存することなどできないという見方を根絶することにあったからだ。

 実際ベルリンでは、パリやブリュッセルと同じくらい、「ドイツ的な欧州ではなく、欧州的なドイツ」が必要だという言い方が何度も繰り返されてきた。

 ところが、キプロス危機が勃発してからは、「ドイツ的な欧州」の色彩が次第に濃くなっているように見える。危機下で取られている欧州大陸の方向性は、ベルリンの政治家と官僚の思想や意向によって形成されている面が強いからだ。

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/37447

ところがぎっちょん、ドイツは「欧州の一員」になるどころか、欧州こそが「ドイツの一員」になってしまいつつあると。巨大な怪物に飲み込まれてしまったものの「内側から食い破り侵食する」なんて、ドイツさんまじラスボス。



こうしたお話は、まぁもちろんドイツさんちの強大さという理由もあるのでしょうけども、同時にまたプロジェクトの完成見込みという安心感が、この現状を招いてしまっているのかなぁとも思うんですよね。
つまり、予め予見されていたドイツの勃興は「だからこそ」周辺国は緊張感をもってその監視と勢力均衡に必死になっていたわけです。ところが欧州連合という壮大なプロジェクトはそれなりに、表面的にはドイツの封じ込めに成功してしまった。その順風さが逆説的にドイツへの監視と抑制という――各国政治家はともかく有権者たちの――機運を奪っていったのだろうなぁと。最早そこに政治的リソースを割く必要はないと。

 ドイツの政策立案者でさえ、この状況が一時的であることを望んでおり、事態が正常化し、EUの新機構が創設された暁には、ドイツがこれほど公然と指揮を執る必要はなくなるかもしれないと考えている。だが、それは恐らく実現しそうにない望みだ。

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/37447

まず最初に欧州連合の『極』の一つたるイギリスがブレアさんの退場と共に脱落し、そして次にフランスがサルコジさんの退場と共に脱落した。
かくして残ったドイツはただ一人残されたヨーロッパの巨人として、権力を手にしてしまっている。ドイツ自身はおそらく本来望んでいなかったはずの主導権が転がり込んできてしまった。


現在の欧州連合が陥っていることは、結局、そういうことでもあるのかなぁと。相対的にドイツが強くなってしまったのは、ライバルたちの脱落こそが現状を招いてしまっている。最早熱意をもって欧州連合で役割を果たそうとする政治家は(ドイツ以外に)いなくなってしまった。身も蓋も無くそれを有権者が望んでいなかったという理由で。
逆説的に、ドイツのそれを支えているのも、結局ドイツ有権者たちの欧州連合への熱意でもあるわけです。戦後から一貫して、おそらくヨーロッパでも随一にその理想郷を真剣に考えてきたからこそ、こうして欧州連合で役割を果たそうとするドイツ政治家=メルケルさんが最後まで残っている。イギリスやフランスではもうとっく退場してしまったにもかかわらず。


しばしば囁かれる「ユーロ解体」引いては「欧州連合解体」について、個人的には、こうしたドイツ有権者欧州連合への希望を失ってしまった時――最後に残されている彼らが絶望した時こそが、その瞬間となってしまうのかなぁと思います。
ということで次の山場はやっぱりドイツ選挙なのだろうなぁと。
G3からG2、そしてG1へ。そりゃ勢力均衡も糞もなく、ドイツ一強になるのも当然であります。
もしこれがG0になったら一体どうなってしまうんでしょうね?




いやぁ人類の壮大な実験である『欧州連合』って面白いですよね。
がんばれヨーロッパ。