現代正戦論における重要な論点の一つ「介入の終わらせ方」

「介入の終わらせ方」について。


シリア内戦、死者最多でも救いの手はなし | ワールド | 最新記事 | ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト
ということでシリア内戦における先月の死者数が過去最大を更新したそうで。およそ6000人。いやぁ救えないお話でありますよね。

 中東の衛星テレビ局アルジャジーラによれば、アサド政権が崩壊すれば、国連は治安維持部隊の投入を含むあらゆる選択肢を視野に入れている。

「国連は人道的な役割を担うつもりでいた」と、アルジャジーラは報じている。「ただ今になってもシリアに関与したがる国がほとんどないなか、それ以上の役割を担う必要になるかもしれないと認めている」

 国連では、政権崩壊後の介入計画が秘密裏に進められており、そのコードネームは「シリア:崩壊後」と呼ばれているという。

シリア内戦、死者最多でも救いの手はなし | ワールド | 最新記事 | ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト

ともあれ、うちの日記でもこれまで散々書いてきましたけども、この悲惨な内戦が放置され続けている現状について、まぁ結局のところシリアの「その後」の難題の前に立ちすくむ国際社会という構図であるわけですよね。誰もアサド後のシリアについて責任なんて持ちたくない。
http://www.foreignaffairsj.co.jp/essay/201305/Hill.htm
フォーリン・アフェアーズで、「ロシアがシリアを援助している理由(の一つ)」としても同様のお話が挙げられているというのを見ると、言われて見ればその通りだよなぁと膝を打つ次第であります。

仮にプーチンがアサドを見限るとすれば、その前に、「体制崩壊に伴う混乱の責任を誰がとるのか」という問いへの答を知りたいと考えるはずだ。誰がスンニ派の強大化を抑え込むのか、誰が北カフカスその他の大規模なスンニ派人口がいるロシア地域に過激派が入り込まないようにするのか。そして、誰が、シリアの化学兵器の安全を確保するのか。プーチンは、アメリカと国際コミュニティがアサド後のシリアに安定を提供できるとはみていない。だからこそ、シリアという破綻途上国を支援し続けている。

http://www.foreignaffairsj.co.jp/essay/201305/Hill.htm

ぶっちゃけロシアさんちからの立場からすると解らない話ではないと納得してしまいそうです。シリアが崩壊してから後悔する位なら今行動した方がマシだ、と。ロシアさんのシリア政府支援は確かに誉められたものではないけれども、しかし、ならば一体誰がシリアのその後についてケツをもってくれるのか? 
――と聞かれると正直困ってしまいますよね。


こうしたお話が難しいのは、ウォルツァー先生が言う所の、それが現代の「正しい戦争」のあり方――『正戦論』の重要な論点の一つでもあるからなのでしょう。*1
人道的介入を行った場合、一体何処まで「復興」させることが責任の範疇にあるのだろうか? 独裁者の排除? 新政権発足? 国内安定? 経済復興?
イラクアフガニスタンで散々苦労していたアメリカの姿を見れば、その基準の曖昧さと復興の大変さは一目瞭然ですよね。やり過ぎれば現地の民意を無視した帝国主義だと批判され、かといって途中で手を引けば無責任だと罵られ、挙句にはその復興支援が長期間に渡ってしまうと国民からは税金の無駄遣いだと選挙で責められることになる。
名実ともに『戦争を終結させた』大統領 - maukitiの日記
だからこそ、アメリカ国民の税金を際限なく吸い込むイラクの泥沼から強引に手を引いてみせたオバマさんは、当時は英断だと誉められてもいたわけで。
イラク開戦から10年 フセイン政権懐かしむ地元ティクリート 写真4枚 国際ニュース:AFPBB News
一方アメリカ軍が去った現在も尚復興の途上にあるイラクでは、かつてはなかった宗派間抗争が激化し「フセイン時代が懐かしい」なんて一部で言われていたりもする。最近の「ムバラク後」のエジプトでも状況は似たような所にありますよね。
おそらく、現在のシリアでも内戦終結後の混乱長期化と共に「アサド時代が懐かしい」なんて言われることになってしまうのだろうなぁと。




人道的な意識に目覚めた私たちだからこそ、その成功と見なされるためのハードルは益々高くなっている。
『善意による覇権』から『善意による傍観』へ - maukitiの日記
そんなより人道的となった私たちだからこそ、簡単に介入なんてできるはずがない。だって介入に伴う復興責任の重さを知っているから。
完璧だとはとても言えないけれど、少なくともより「正しい戦争」を目指そうとする分別はあるから。かくして、余程切羽詰った当事者がケツを持とうと手を挙げない限り、悲惨な状況を前にただただ手をこまねくことになる。
いやぁ素晴らしく人道的で、現実的な計算に基づいた振る舞いですよね。

*1:ちなみにもう一つ重要なお話は(無人機などによる)『リスク無き戦争行為』だそうですけども、こちらはこちらで興味深いですけれども、今回は割愛。