全ての道はドイツに通ず

自由往来と社会保障の緊張関係。


ドイツ人の怒り最高潮、なぜクロアチアも加盟するんだ キプロスの次はスロベニアと、渦中のEUにさらなる火種(1/4) | JBpress(日本ビジネスプレス)
ということでドイツさんちも「一人勝ち」なんて言われる中で、彼らは彼らなりにまた別の次元で苦しみはあるのだろうなぁと。その分良い目を見ているというのはその通りなんですが、でもまぁそれを言ったら経済危機で苦しむ南部欧州諸国だって同じことを言えてしまうのでやっぱり「理屈じゃねぇんだ」という辺りなのでしょう。

 ドイツの内相が、「EU内での自由な往来というのは、ドイツの生活保護を受ける方が自国で暮らすよりもよい生活ができると思った人々が、いつの日か、ヨーロッパのあらゆるところから、自由にドイツへ来られる自由を意味するのか?」とブリュッセルで言ったのは、ドイツ人の持つ疑問を的確に表している。

ドイツ人の怒り最高潮、なぜクロアチアも加盟するんだ キプロスの次はスロベニアと、渦中のEUにさらなる火種(1/4) | JBpress(日本ビジネスプレス)

そういえば「ドイツが全ヨーロッパの『スラム』になるかもしれない」という懸念は、欧州連合にずっとあったよなぁという話を思い出しました。
同時にまた、リンク先でもノルウェーの事例などが言及されていますが、これは現代における「進歩」の象徴でもある福祉社会に対する、強力な天敵であるよなぁと。もちろん要件を厳しくすればいいのでしょうけども、しかしそれでは社会保障本来の理念である「弱者救済」と、そして欧州連合の理念とも、矛盾が生まれてしまうことになる。
(実際にどうなのかはともかくとして)自国の社会保障が食いつぶされると怯える人たち。
一般に経済的に下層な人たちほど『排外主義』のようなモノに走りやすいのは、制度とより密接な所にある彼らだからこそ、より危機感を抱いてしまう点にあるわけで。フリーライダーは許せない。まぁ逆に、現実を知っているからこそ社会保障に対する絶望も深まってしまう――一方で意識高い人たちは無邪気にそれを賛美する、という愉快な構図もあったりするんですが。
ともあれ、かくしてその市民の支持は、一部政治家に対するインセンティブともなってしまう。


この辺り、皮肉なお話ではありますけども、健康保険をはじめとする「社会保障なんて知ったこっちゃねぇ!」とやってきたアメリカさんちの不法移民に対する黙認が許容されてきたのって、結果的にむしろその部分に対するダメージが少なかったからだよなぁと。貧乏人が野垂れ死のうが知ったことではないという冷淡な態度こそが、結果的に世界最大の不法移民を受け入れる下地を生み出してもいる。
既に大きな財政負担となりつつあるオバマケアって、こうしたアメリカの政策に一石を投じることにもなるかもしれない。移民により厳しいNOを。移民受け入れに関して比較的寛容な態度を採り続けているオバマさんですけれども、しかし一方で良かれと思ってやった社会保障の拡充は、上記ドイツのような怒りをアメリカでも生み出すことになるのではないかなぁと。


ヨーロッパでは制限の方向へ、一方アメリカでは(ようやく)拡充の方向へ、それぞれ向きつつあるのはなんだか愉快な構図だなぁと思ってしまいます。