彼らは「バングラデシュの労働者がどうなろうと知ったことではない」(と消費者は思っているに違いない)と考えている

その傲慢さは彼らの罪。それを許してしまうのは消費者たちの罪。


バングラデシュ縫製工場の安全協定、ユニクロは署名保留 写真1枚 国際ニュース:AFPBB News
バングラデシュの安全基準協定に参加せず=ファーストリテイリング - WSJ.com
ということでユニクロさんちは協定スルーだそうで。またこれで叩かれてしまうんだろうなぁと。

【5月29日 AFP】日本のアパレル大手ユニクロUniqlo)は28日、先月のバングラデシュのビル崩壊事故を受けて国際労働団体が調印を求めている安全協定について、これまでのところ署名していないと述べた。事故をめぐっては米当局もブランド各社に労働条件の改善を呼びかけている。

 米小売大手のギャップ(Gap)やウォルマートWalmart)などは、すでにこの協定「防災・建物安全協定(Accord on Fire and Building Safety)」への署名を拒否することを発表している。一方、欧州のブランド、H&Mやザラ(Zara)、マークス・アンド・スペンサー(Marks and Spencer)などは協定に合意して、防災と建物の安全性の検査に協力している。

バングラデシュ縫製工場の安全協定、ユニクロは署名保留 写真1枚 国際ニュース:AFPBB News

なんといっても同じく拒否した企業の並びが悪名高すぎますよね。ウォルマートやらギャップやら。
ただまぁやっぱり彼らは営利を追及するただの企業でしかないので、こうして「バングラデシュの労働環境なんて知ったことではない」という態度で売り上げが維持できるのならば、やはりそれは一つの最適戦略でしかないだろうとも思ってしまいます。
そもそも、この安全協定に署名している側にしても、この参加することによるダメージが少ないだろうと想定しているからこそ参加してもいるわけで。しかし逆に拒否した側はそう考えていない。この構図が証明しているもう一つの面というのは、参加することで値上げに繋がりそれが消費者離れを招いてしまうことを恐れる企業と、そうした値上げについて消費者は理解してくれるだろうと許容する企業、という構図でもあるのです。
つまり、これは企業文化の違いであると同時に、その企業がターゲットとしている消費者文化の違い、でもある。
ユニクロの消費者たちはその値上げを許さないだろう、とファーストリテイリングの中の人たちは考えているのです。それが正しいか間違っているかはともかくとして、しかし当事者である彼らはそう予想している。
――そんなユニクロの予測について、「間違っている!」「日本の消費者はそうした劣悪な労働環境を許さない!」なんて絶対の確信を持って言えることは僕には出来ません。おそらく実際に日本では、少なくない人がそんなこと知ったことではない、あるいはそもそも産地なんて興味を持つことすらしないのではないかなぁと。
「利益のためなら(従業員は)死んでもいい」という経営者たちと、「安さのためなら(従業員は)死んでもいい」という消費者たち - maukitiの日記
もちろんその損益分岐に関する判断基準の多少の差異はあるでしょうから、その意味で企業側の責任がゼロであることも絶対にありません。しかしそれは100%全ての責任を彼らの判断に着せられる単純な話でもないのです。またそこには政府による『規制』という要素もあったりするでしょう。
そして、私たちこそが、そうした企業(そしてその姿勢)を選び続けているという要素だって当然あるのです。
安さを求める私たち。
自分が安く良いモノを買う為ならば、海の向こうの労働者の劣悪な環境なんてどうだっていい。ビバユニクロ




まぁこの辺りは以前の日記の焼きなおしでもあるのでさて置くとして。
ちなみに、こうした協定はバングラデシュにとっても実は競争上の優位ともなるんですよね。より安全な労働環境を構築することが、結果として――単純に安さだけでなくそうしたことを「気にする」――海外企業を引きつける事になる。
よく私たち先進国でも『中国製』の安価な商品の脅威が叫ばれて居たりしますけども、しかし実はそうしたメイドインチャイナの大奔流に一番ダメージを受けているのって、中国と同じレベルで「安価な労働力」を売りとする後進国の皆さんであるわけです。本来彼らが先進国にモノを売ることができていたはずの市場が、まさに圧倒的な規模を持った(そして人民の命が限りなく安い)中国に根こそぎ奪われているのです。
こうした構図において、中国との差別化、というのは実は大きなメリットともなっているわけです。つまり、中国にはあまり出来ないような「労働環境の整った工場」を用意することが、結果として、単純に安さだけを追求しない一部の海外企業を引きつける事になる。
中国製との差別化。搾取労働ではないという証明書。確かにそれはバングラデシュにとってもう一つの選択肢ではあるのです。


ということで今回のユニクロなどの決定について、個人的には「悪どいなぁ」と思うよりはむしろ、「彼らはバングラデシュを第二の中国にしたいんだなぁと」という気持ちの方が強いです。
『非搾取工場証明書』なんかよりも『安さ』を求める企業たち――そして消費者たち。