ヨーロッパ次世代の姿、の可能性の一つ

草刈り場。


http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/38024
これはなかなかおもしろい評論だなぁと。言われてみれば確かにそういう風に見えるお話。分断統治されつつある欧州。

 同じように目を見張ったのは、EUに対する分割統治的なアプローチがあからさまに認められたことだ。人民日報は、大半のEU加盟国はデフフト氏が提案する反ダンピング課税に反対していると指摘した。人民日報が付け加えていたかもしれないのは、その事実が、個々の政府に強い圧力をかける中国の戦略の成功を裏付けているということだ。

 ソーラーパネルの決定に先立って、中国は様々な脅しを展開した。すると、あら不思議、ドイツのアンゲラ・メルケル首相が他の指導者に先んじてデフフト氏と袂を分かつ用意があることを示した。こうして中国の李克強首相によるベルリン訪問は、予定通り進めることができた。

 中国政府は、自分たちが内政干渉だと見なすことに対して同じように強硬な態度を取っている。英国のデビッド・キャメロン首相は昨年、チベットの精神的指導者ダライ・ラマとロンドンで会談した。それ以来、キャメロン首相は中国指導部から締め出しを食らっている。

 一方、ダライ・ラマとの将来の接触について個人的な「確約」を与えたと言われているドイツとフランスの首脳は、北京で自由に商売ができる。

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/38024

この辺り、同じ域外の大国たち――アメリカ・ロシア・中国の、ヨーロッパに対するアプローチの違いがそれぞれ出ていておもしろい構図でありますよね。
元々アメリカにとってヨーロッパの結束については自身の利益になるからと賛成していた一方で、しかし歴史的に欧州政治というものを信用していない彼らは基本的に舐めプレイであったわけです。「欧州連合(笑)」なんて。そしてロシアといえば(少なくとも)その半分は自らの裏庭だと考えてきた。
ところが中国はそんな欧州に対して、積極的に分断を仕掛けてきている。ロシアのように直接の国家安全保障というよりは、それこそ世界中――アフリカやアジアや中南米でやっているのと同じように、そして欧米諸国自身もやっていたように、「ヨーロッパ」という地域でも同じく平然と利権と票を獲得する為に餌(と脅し)をちらつかせることで影響力を確保しようとしている。
こうしたやり方は実際、それなりに意味のあることではあります。これまでも何度も(皮肉として)書いてきたお話ではありますが、やはり現代の国際社会というものは結局欧米社会とほとんど同義であるわけで。そんな彼らの一部を買収することができれば、国際的な正当性を獲得することだって夢じゃない。それはまぁ単純に武力を使うよりもずっと平和的なやり方でもあります。
彼らは別に欧州連合を弱体化させようとかそういうつもりでこうした事態を引き起こしているわけではなく、単純に自身の利益のみを追求しているに過ぎない。ヨーロッパは彼らにとって、それ以外の国々と同様に、懐柔し買収して、自身の利益の踏み台に過ぎない。
EU、中国製太陽光パネルに反ダンピング関税導入へ=関係筋| Reuters
EU、特殊鋼管めぐり中国をWTO提訴の構え=関係筋| Reuters
その解りやすい一端が、最近話題となっている中国製太陽光パネルダンピングを巡る欧州内での分裂を露呈した議論であります。加盟国の「大半が」反対していながら、しかし欧州連合の委員会は懲罰的関税を強行した*1。そこから更に発展して欧州ワインや欧州車への対抗関税という事態に発展していて見事な貿易摩擦であります。そしてそれ以外にも、人権問題でもあるウイグルダライラマに関する中国の圧力でもある。特に東欧諸国への働きかけはものすごいモノがあったりするわけです。
ハンガリーよ、情けないぞ! : ウィーン発 『コンフィデンシャル』
安倍さんが先日ポーランドで会ったV4の内のハンガリーなんて、つい最近にウイグルの人たちを中国の圧力を受けて国外退去させていたそうで。
時事ドットコム:共同声明要旨=日・東欧4国
そんな中で安倍さんが東欧に行ったのは、「民主主義および法の支配へのコミットメントを共有する」なんて言っている辺り、こうした背景とはやっぱり無関係ではないのだろうなぁと。まぁその意味では私たち日本も同じくヨーロッパを『草刈り場』として見ていなくもない。

 欧州は失うものが一番大きい。米国は、経済的、軍事的強さを持ち、自給自足の超大国として独力でやっていく天然資源を持っている。欧州は、団結するか、さもなくば存在感を失うかという選択を迫られている。欧州は、米国に憤慨する理由を持つよりも、自己主張の強い中国から脅かされることの方が多い。

 欧州の人々は、政策立案者たちが地政学の世界の厳しい現実を認め、塩素処理された鶏肉に関する戦いを大局的に見ることを願うしかない。

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/38024

なんというか、やはり新しい地政学の構図ではありますよね。かつて世界の中心であったヨーロッパの現状。冷戦時代の東西対立とも、そして冷戦後の米欧関係とも違う、新しい構図。ソ連がこけ、アメリカがこけ、いよいよ欧州連合の存在意義が薄れるかと思ったら、中国の台頭でご覧の有様に。かつての時代とは裏腹に、草刈り場に「される側」に回ってしまうのではないかと怯える人びと。そうならない為にこそ、欧州連合の結束を深めようと叫ぶ人たち。




ソ連は敵と見なし、アメリカは冷笑し、そして中国は購入(脅迫)可能な駒としてしか見ていないヨーロッパ。
まぁどれが一番マシなのかと聞かれると、困ってしまいますよね。がんばれ欧州連合