国家安定か、民主主義か

そして満を持して『軍』がやってくる。


エジプト反政権派、モルシ大統領の退陣期限を設定 写真1枚 国際ニュース:AFPBB News
ということで予告通り(抗議活動のはじまった記念日である)6月30日を迎えてモルシさんへの大規模抗議運動の始まりであります。まぁやはり、それまでにあった大きな「期待」に応えられなかった政権に対する反作用もあってか、ものすごく盛り上がっているそうです。
エジプトデモ隊がレーザー掃射で空軍ヘリを迎え撃つ画像がなんかかっこいい : ガハろぐNewsヽ(・ω・)/ズコー
個人的にとても21世紀的風景だなぁと思ったのが上記の風景であります。軍のヘリコプターにレーザーポインターが照射されまくっている。なんだか幻想的な絵ですよね。もちろん銃やRPGを向けるよりはずっと平和的ではあるんですが、だからといってレーザー照射するのが完全に平和的だというとそうでもなく。勿論それなりに安価な商品ではあるんですが、そうした道具がここまで広まっていることもそうだし、そしてそれがこうしてためらいなく用いられている構図は「ソーシャル革命」と言われた革命の風景と合わせてとても現代的な絵だよなぁと。



エジプト軍、「48時間以内にデモ要求に応えなければ介入」 写真3枚 国際ニュース:AFPBB News
ともあれ、話を戻していよいよメインプレイヤーの一人であったエジプト『軍』が満を持しての登場であります。現在でもアラブ諸国でしばしば見られるいつもの光景と言っては身も蓋もありませんが。大きな政変が起きると、結局軍が出てきてしまう構図。国家におけるむき出しの暴力装置、しかしそれ故に最終的且つ究極的解決を提供できる。そんな構図について、まぁ笑うことは簡単でありますが、せいぜい100年ほど前までは私たちもほぼ同じような世界であったので、やっぱりそれを一方的に笑うことはあまりできないよなぁと。

【7月2日 AFP】反大統領デモが拡大し、ムハンマド・モルシ(Mohamed Morsi)大統領の退陣要求も出たエジプトで、軍が1日、48時間以内に人々の要求が満たされなければ介入すると警告した。

 軍は「人々の要求に応える最後のチャンスとして(全ての勢力に)48時間を与える。もしこの間に人々の要求が満たされなければ、(軍が)今後のロードマップ(行程表)を発表し、それが履行されるのを監督する」との声明を国営テレビで発表した。

 6月23日の時点でアブデルファタフ・サイード・シシ(Abdel Fattah Said al-Sisi)国防相が、国が混乱に陥るのを回避するために軍の介入もあると警告していた。エジプトは現在、大統領を支持するイスラム主義勢力と、より多くの支持層を擁する反大統領派に二分されている。軍は双方に和解するよう1週間の猶予を与えていた。

エジプト軍、「48時間以内にデモ要求に応えなければ介入」 写真3枚 国際ニュース:AFPBB News

エジプト軍が真に国を憂いての行動なのか、それとも自らの権限を維持拡大する為の利己的な行動なのかはともかくとして、しかしこれで一応は軍が出てくることについての大義名分は立ったと言っていいのかもしれません。
あくまで表向きは「仲介者」としてのポジションを崩さない軍の中の人たち。


それこそ国民世論によって半ば後押しされる形で出てきた軍の皆さまは、おそらくこうした事態になるタイミングをじっと待っていたのだろうなぁと。それはまぁ実務能力のないムスリム同胞団に対する冷めた目であったのだろうし、同時にやっぱり過去の教訓から、自分たちが出て行くと国内的にも、そしてそれと同じくらい国際的にも非難されることが目に見えていたから。
特に彼らの念頭にあるのは1991年アルジェリアの教訓があったのかなぁと。わざわざ自分たちが(幾ら失敗する可能性が高いからといって)積極的に政治に介入することで、あのアルジェリアの二の舞になるのはゴメンだ、と。
1991年の選挙の後一度もやらせることなく事前に混乱の芽(イスラム原理主義政党による政権誕生)を摘もうとして――ジャック・デリダ先生に言わせると「彼らは民主主義を守ろうとして民主主義を殺した」――国際的にものすごい非難されたアルジェリア軍部と、ならばいっそのこと「一度やらせる」ことで混乱と引き換えに自分たちの非難を最小限に抑えようとしているエジプト軍部。


いやぁどちらがマシなのかと言われると困ってしまいますよね。将来どう転ぶのか解らないまま「国家の安定」かそれとも「民主主義」かという究極の二択を迫られる人たち。
個人的にはやっぱり、そんな二択とはほとんど無関係でいられる私たち先進国から、第三者として無責任なことはまったく言えないと思ってしまいます。まぁリベラル系の欧米マスメディアの人たちは、しばしば、こうした時に無邪気に民主主義を煽りまくるんですけど。



ともあれ、このままエジプトがシリアのように分裂するのかというと、今のところはそれもないのでしょう。警察や軍は概ね反政府側についている――少なくとも政権側にはつかない様にしているようなので、究極の暴力装置の掌握こそがその趨勢を決めることがパターンとなった『アラブの春』の前例に従えば、おそらく現状ではモルシさん側に勝ち目は薄い。


がんばれエジプト。