アメリカが『スーパーヒーロー症候群』をやめるにやめられない理由

前回日記の補遺的なお話。


「世界の民主主義を守るためにアメリカは立ち上がらないといけない」この傲慢な発想はどこから来たのか? パットン将軍、自腹でシアーズ・カタログから部品を購入 - Market Hack
その強い言葉の背景にあるもの。

シリアで化学兵器が使用され、オバマ大統領が「シリアはレッドライン(最後の一線)を超えた」と警告しました。この一件で、国際政治におけるアメリカの役回りに関して、議論が沸騰しています。それはつまり「アメリカは、まるで世界のおまわりさんみたいに振舞っているけど、アンタ、一体、何様?」という世界の反感です。

この問題の歴史的背景を解説する前に、僕個人はどう考えているかを断っておくと、僕はアメリカのこのような考え方を「スーパーヒーロー症候群」と呼んでいます。つまりこれは中二病をこじらせたような困った性癖であり、世界のためになるというより、迷惑になるケースの方が多いと思うわけです。だからこれはアメリカ擁護論ではありません。

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まぁこうした風に考える人は少なくないのでともかくとして、しかしまぁ実際の所アメリカさんは今更「やめるにやめられない」という面もあるんですよね。つまり、『世界のおまわりさん』をやめるだけなら簡単なんですよ。しかし今更それを「一気に」やめてしまうということは、既存の国際秩序の維持という面や、そして今も尚アメリカ国内に根強く存在する孤立主義的傾向を無視できなくなってしまうから。
まもって国際秩序! - maukitiの日記
この辺は先日も書いたお話ではありますが、現代において、アメリカという国家はあまりにも大きな責任を担いすぎているんですよ。だから一度始めてしまったことが、良くも悪くも、簡単には止められない。故に彼らは否応ナシに関与せざるを得なくなってしまっている。そのことに対する否定の声として、よく言われる「アメリカは、まるで世界のおまわりさんみたいに振舞っているけど、アンタ、一体、何様?」という海外からの声だけではなく、今も尚国内的にも「何故アメリカがそんなことをしなければいけないのか?」という声は決して少なくないのです。あの米国大統領選挙では毎度御馴染みのロン・ポールさんの徹底した不介入主義な主張は見事そのまんまですよね。
アメリカは在外米軍を全て撤退し、国際連合からもNATOからも離脱すべきである」なんて。
上記リンク先では「世界の反感」と仰っていますけども、しかし実のところ、彼らが『人権』や『民主主義』を持ち出すのって別に世界の人びとに向けてのアピールというだけでは必ずしもないのです。むしろそれはアメリカ国民の支持を得るためにも、人権や民主主義を守る為にアメリカは行動しなければならない、と叫んでいる構図は、現代アメリカにおいても重要な意味を持っているのです。
こうしたアメリカ国内にある根強い価値観の対立――「孤立主義と国際主義」「理想主義と現実主義」など――を念頭に置かなければ、何故アメリカはああして傲慢で自信満々な態度を取っているのか、という説明には正直不十分だよなぁと。それは前回日記で書いたように、誕生した時からそうであったし、そして今も尚その構図は変わっていない。
彼らは自分たちの行動の正当性をアメリカ国民に証明する為にも、中途半端な態度を取るわけにはいかないのです。最早冷戦は終わり、かつてあった大義は益々薄れつつある。そのような状況下だからこそ、アメリカの政治指導者たちはより傲慢な言葉を発し続けなければいけなくなっている。そこで失敗すれば、現在でさえ見え隠れする国際機関を信用しないアメリカという姿が、より前面に出てきてしまうかもしれない。


もちろん、アメリカが永遠にそのポジションでいられるわけでもないのも当然であります。いつかはそれを止めなければいけない未来がやってくる。しかし、それは絶対に急激な変化であってはならない。もしそうなれば、かつてもあったように、アメリカが一気に世界への関与から手を引くと大混乱になるのは確実であるし、あるいはもっとヒドいことになるかもしれない。良くも悪くも現代国際関係はアメリカありきのバランスで形成されているのだから。
――その上で、しかし、このままアメリカだけが重荷を背負い続けるわけにもいかない。
如何にして、穏便な形で自らのパワーの出番を減らしていくか――撤退するだけなら簡単なんですよ、しかし一度でもその国際主義を緩めてしまったら一気にアメリカの伝統的価値観である孤立主義への憧憬が大復活してしまうかもしれない。オバマさんを含む21世紀のアメリカ大統領はそうしてジレンマと戦い続けることになるのだと思います。