パキスタンちゃんどいて! そいつ(=テロリスト)殺せない!

W州小浜さんの重い愛。


「パキスタンのタリバン運動」最高指導者、米無人機攻撃で死亡 写真2枚 国際ニュース:AFPBB News
パキスタン、対テロで米と思惑のズレ タリバン司令官死亡  :日本経済新聞
ということで『TTP=パキスタンタリバン運動』さんちのトップを無人機で爆殺したそうで。いやまぁ、確かにビンラディンさんと並ぶほどではないにしろ、これまでの無人機作戦の中でもトップクラスの大戦果と言ってもいいのではないでしょうか。「あの」マララさんを銃撃したテロリストたち。まぁもちろん彼女は銃ではなく教育で世界を変えられると仰る――そしてそれはそれでいいと思います――でしょうけど、しかしそれでも、個人的にはやっぱりああした彼らに短期的に対処するにはこちらも銃を取るしかないと思いますから。


ただ、そんなアメリカのやり方は、やっぱり当事者たるパキスタンさんちからは非難されてしまうんですけど。

 TTPは政府との和平協議の条件として「米国の無人機攻撃の停止」を要求。治安改善による経済活性化を狙うパキスタンのシャリフ首相は協議実現に向けた地ならしを進めてきた。10月下旬にはオバマ大統領と会談し「攻撃の即時停止」を求めていただけに、パキスタンのカーン内相は2日「(米国の)攻撃は和平への努力をぶち壊した」と強く非難した。

パキスタン、対テロで米と思惑のズレ タリバン司令官死亡  :日本経済新聞

長年の不倶戴天の敵であったTTPさんとの間で、折角和平交渉が纏まりかけていたところにコレですから、まぁお怒りになるのも当然といえば当然でしょう。完全に喜ぶことも、かといって完全に怒ることもできない彼ら。
ここで生暖かい気持ちになってしまうのはそんなパキスタンさんちの一方で、おそらく、ビンラディンさんの暗殺時と同じようにアメリカさんちとしてはそれはもう無邪気に「これでパキスタンは改心して俺たちに協力してくれるだろう」とか思ってそうなのが、まぁ笑い話というかなんというか。あれほどパキスタン側は「無人機作戦をいい加減やめてくれ」と頼んでいても、しかしアメリカ側はむしろ感謝されると思って無人機を続々と発進させる。
これでもっとパキスタン政府が協力的になってくれるだろう、なんて。いやぁすれ違いというか、歪んだ愛情というか。




かくして「お兄ちゃんどいてそいつ殺せない」的な風景へ。




それでもこの件でアメリカを擁護することもやっぱりできるんですよね。そもそもパキスタン政府にとって、アルカイダをはじめとする様々なイスラム過激派の中でも『TTP=パキスタンタリバン運動』というのはその中でも唯一と言っていいほどの宿敵であるわけで。実際TTPにとっての目標は――幾つかの例外はあるにしても――徹頭徹尾「パキスタン政府」であったわけです。だからこそ対テロ戦争以来、とにかくアルカイダタリバンをぶっ潰そうとするアメリカに対して、その対テロ戦争の重要な同盟国であったパキスタンは当初から「それよりTTPをもっと攻撃してくれ」と要請してきたわけであります。アメリカと同盟国になった理由には、そもそもパキスタン側にもそういう思惑があったわけで。だからそれは10年越しの目標が結実した、とも言うことはできるのです。
――それでも、あれから10年以上経過した現在では今更過ぎるお話であり、タイミングが悪かった、というのはほんともう言い訳のしようもありませんけど。
この辺りのパキスタン政府の懊悩というのは、現代のイスラム世界においてほぼ普遍的に存在するジレンマであるんですよね。つまり、反体制派なイスラム過激派に悩む彼らがその打開策としてアメリカと協力すればするほど、しかしこうした遠慮のない無人機作戦などによって地元住民の反米感情が高まり、そして国内のイスラム過激派が活発化する、という二律背反。このパキスタンを筆頭に、サウジアラビアイラクアフガニスタンなどなど、多かれ少なかれほとんど何処の国でも見られる光景であります。実際、パキスタンにとってのTTPがそうであるように、多くの国で国内のイスラム過激派の台頭とそれに伴う政治的影響力の増加に心底頭を悩ませている。
もちろんアメリカの助けは借りたいけれども、かといってやる気――殺る気マンマンなアメリカと手を組んでしまうと、「余の辞書に手加減なんて文字はない」とばかりにそれはもうやり過ぎて――殺り過ぎてしまう。




ともあれ、オバマさんとしては、まぁ彼らしいやり方であると言えばその通りなのでしょう。
「正しい戦争だからセーフ」と考えたブッシュさんと、「戦争じゃないからセーフ」と考えているオバマさん - maukitiの日記
「戦争で世界を変えてみせる」と確信していたブッシュさんから、「無人機で世界を変えてみせる」と確信しているであろうオバマさん。やっぱり一体どちらがマシなのかと言われると困ってしまいますけど。
故に世界の中心でアメリカは世界の諸国家にこう叫ぶのです。それはおそらく正真正銘の善意として、あるいは一方的で歪んだ愛として。
「お兄ちゃんどいて、そいつ(=テロリスト)殺せない!」


ヤンデレ国家アメリカの重すぎる愛情。