『自爆テロ攻撃』の生まれ故郷

ピタゴラスイッチ的な風景。


行き場のないイギリス外交の最後の砦? - maukitiの日記
昨日の日記でスリランカさんちのお話について少し書いて、そういえばとあまりその本筋とは関係ないお話を思い出したので適当に。現在でも尚「緩やかに」差別され続けているタミル人勢力『解放の虎』がしらしめたあまりにも効果的な軍事戦術の現代世界への影響について。
http://sankei.jp.msn.com/world/news/131116/erp13111608360000-n1.htm
まぁ現在でもこうしてイギリス首相からしたり顔で非難されるスリランカ内戦の構図――多数派シンハラ族(仏教)と少数派タミル族(ヒンズー教)――その経緯としては極ありふれた悲劇なお話なので、wikipedia先生でも見ていただけば表層の知識としては十分なんじゃないでしょうか。まぁでもこの話題ってものすごく政治的にアレなので本家英語版でも編集合戦状態なんですけど。
植民地支配が真に恐ろしい理由 - maukitiの日記
そんな現在の政治的正義の行方はさておき、そもそもこのスリランカ内戦の要因といえば、以前の日記でも書いた「植民地支配の真の恐ろしさ」の典型例故に、であります。現地少数派勢力を「敢えて」政治的・経済的・社会的にに優遇することで、多数派の不満をそこに向かわせる。それまで現地に伝統的にあった勢力バランスを逆の構図に入れ替える人工的革命。
――つまり『分割統治』である。
ちなみに最近話題になって手の打ちようのないミャンマーの民族紛争でもほぼ似たようなことをやっていたわけで。ほんとイギリスはロクなことしねーな。
まぁ構図としては大体こんな感じでしょうか。

(もちろんタミル人にとって多少の不満はあったものの)長年の共存によって、それなりに均衡状態にあったセイロン島。

イギリスの植民地支配。ヒャッハー分割統治だー!

分割統治=タミルの優遇政策。意図的に下等民族として置かれた多数派シンハラ激おこ。

植民地支配の終わり。反動で多数派のシンハラ族が優遇政策開始。積年の恨みはらさでおくべきか。

差別されたタミル族激おこ。反政府運動のはじまり。そして泥沼の内戦へ。

見事にイギリス分割統治による負の遺産の典型例であります。だからこそ、昨日の日記でも書いたようにイギリス首相がしたり顔でそんなスリランカの『人権侵害』に口を出しているのが、ものすごく、愉快な構図であるんですけど。もちろんイギリスがスリランカに対して言っていることは人道的観点としては限りなく正論ではあります。セイロンだけに。ただそれでもものすごい「お前が言うな」感。
いやぁほんとイギリスはロクなことしねーな。




ともあれ、そんなイギリスお馴染みの愉快なお話は置いといて、以下本題。
そもそも、このスリランカ内戦における構図、シンハラ人とタミル人の勢力バランスというのは、まさに「圧倒的」といっても過言ではないほどだったわけです。単純に人口比で見ても1:5に届かず、更に戦力比で見れば国軍を持つシンハラ人の方が圧倒的でした。しかし、それでも、1970年代から一時停戦の90年代後半まで彼らは20年以上戦い続けたわけであります。一体どうやって?
――その一つは、海外からの豊富な資金援助であり、そしてもう一つが自爆テロという(当時としては)画期的な手法によって。
彼らは軍事戦術は普通に正規軍を整備していくだけでなく、カミカゼ自爆テロという手法も編み出していったのです。そして、そんな200回以上とされる自爆攻撃の成功は、スリランカの国家基盤に大きな打撃を与えていた。中央銀行への自爆テロ。飛行機よる自爆テロ。政府軍艦艇への自爆テロ。その派生グループである「ブラックタイガー」による十代の少女による自爆テロ
まるで私たちいつか見ることになる風景そのものが、90年代のスリランカでは日常にあったんですよね。
21世紀になってから私たちが毎日のニュースで目にするようになった、アルカイダをはじめとするイスラム過激派の自爆テロって『カミカゼ』というよりは、むしろこの『解放の虎』のやり方の模倣であるんですよね。カミカゼと違って、こっちはきちんと成功していたわけで。かくしてその成功が、あの2000年に起きたアルカイダによる米巡洋艦コールの自爆攻撃へと繋がり、中東世界でもその有効性が証明された後はまぁご覧の有様へ。かつては欧米文明に対する自爆テロから、そして今ではイラクアフガニスタンなどで日常の光景となった現地政府に対する自爆テロへ。
かつてのスリランカの風景が、世界中に輸出された現在。


ちなみに、そんな『解放の虎』の勢力を支えた海外援助は弾圧によって亡命した世界各国の現地タミル人社会でありました。その大きな一つがカナダにあったりしたので、こうしたことは今回のカナダが会議をボイコットしたことの遠因の一つでもあるのでしょう。
ところが、そんなスリランカの内戦が2000年以降に一時的とはいえ終結した最も大きな要因の一つが、こうした『解放の虎』への海外からの資金援助が『9・11』後の対テロ資金口座凍結によって、決定的な打撃を受けたことにあったりするんですよね。
スリランカでの自爆テロの成功が回りまわって『9・11』の航空機自爆テロへ繋がり、そして『9・11』後になって(ようやく重い腰を上げた)アメリカによるテロ資金口座の凍結によって、内戦の趨勢は決定的となり『テロ組織』認定を受けた後は武力闘争の再開後もその劣勢を覆すことができなかった。


いやぁ歴史の流れって興味深い――と言っては不謹慎かもしれませんが、数奇な巡り合わせだよなぁとしみじみ思ってしまいますよね。そしてやっぱりイギリスってロクなことしねーなオチ。