レッドラインの上で踊る中国

防空識別圏騒動の先にあるもの。



http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/39362
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/39394
ということでここ十年来の間親中反中問わず続いてきた、大きな議論(の分かれる)テーマであった難問「中国は戦略的パートナーなのか、それとも不倶戴天の敵なのか?」といお話の決着がいよいよ最終局面に至りつつあるのかなぁと。オバマさんがアサドさんの化学兵器攻撃について「レッドラインだ!」とやっておりましたけども、それを言うならば今回のこともかなり明確なレッドラインギリギリの行動なんですよね。
――つまり、国境を越えて武力を行使するのか否か、という意味で。
セン閣上空でつかまえて - maukitiの日記
先日の日記でも書きましたけども、彼らのあの防空識別圏の設定って、身も蓋もなく言えば「領空外での軍事力使用宣言」に等しいモノでもあるわけで。だからこそ、アメリカは即座に反応した。私たち日本人なんかが半ば麻痺しているように、以前から続いていた『(名目上の)漁船』の侵入やらなんやらとは、決定的に違う意味を持っているのです。上記「中国は一体どうするつもりなのか」という難問について。それを外から戦々恐々と眺めるしかない私たちは、答えを測るには結局のところ中国自身の振る舞いを見るしかない。一体彼らの意図はどこにあるのか。その意味で「国境外での力の行使」の可能性というのは、まぁレッドラインとするにはそれなりに妥当な判断基準でありますよね。
バイデン米副大統領、中国の防空識別圏認めず - WSJ
「防空識別圏、日本とアメリカに温度差」中国紙が指摘 | ハフポスト
今回のイベントにおいて、これまでアメリカの中の人たちがほとんど一貫して述べているように、重要なのはその点なんですよ。日米に温度差があるというのは一部で正しい。アメリカは別に防空識別圏そのものを設定すること自体の撤回は求めない。しかし、国境外での軍事力行使に繋がる行為だけはやめろ、と。まさにその点こそ決定的なレッドラインとなりかねないから。だからこそ、彼らは中国にその一線を越えさせない為にこそ、どうにかその抑制しようと努力している。まぁ当たり前の話ではありますよね、そりゃ敵であるよりも、戦略的パートナーであったほうがずっといい。それは世界中ほとんどの国がそう考えているはずなのです。爆撃機なんかを即座に飛ばしたのはこうした意味合いが強いのでしょう。
頼むからレッドラインを越えないでくれ、なんて。



さておき、微妙に話はズレますけども、でもまぁやっぱりこうした状況を招いたのは基本的にはアメリカさんちの失態でもあるんですよね。シリアでやったレッドラインやるやる詐欺。もちろん私たち日本に失態がないともまったく言えませんけど。つまり、アメリカの隙(日本の隙)こそが中国の今回の行動を招いたとも言えるわけで。国際関係ではしばしば言われるお話ではありますが、、これは単純に責任問題というよりは、行動基準のお話なんです。
人類社会における永遠の対立構造 - maukitiの日記
以前の日記でも関連したお話を少し書きましたけども、つまりアメリカや私たち日本のように「現状維持」を考える人々と、中国のように現状に不満を持ちそれを打破したいと考える「現状打破」な人々では、結果的に出力されるのが同じ行動でもその意図する意味合いが異なってくる。
一般に前者の現状維持勢力たる人々は機会ではなく必要性に応じて行動する一方で、しかし現状打破勢力の人々は必要だから行動するのではなくて、いつか現状をひっくり返してやろうと隙を伺う彼らはチャンスがあるからこそ動くのです。かくして東アジアのパワーバランスをどうにか変えたい中国はチャンスと見れば行動するし、逆にそれを維持したいアメリカ(もちろん日本も同じで)は必要があれば行動せざるを得ない。
この辺の力学の背景を理解しなければ、昨今の中国さんちの振る舞いやアメリカさんちの振る舞いの意味をきちんと把握できないのではないかなぁと。同じ振る舞いでも意味するところはまったく違う。迂闊だったアメリカと、必要だったからではなくて「隙」につけ込んだ中国と、そして必要だからと動くことになったアメリカ。
まぁ余談ではありますがこうした視点で考えると、なにかと内外から極右だとか軍国主義者だとか煽られる安倍さんが(右寄りということは同意しても)しかしそこまで大それたことを考えているとは個人的には思わないんですよね。東アジアの現状について、それはほとんどの日本人が持っているであろう「現状維持」という考え方から乖離しているわけではないだろうし*1、むしろ積極的に『現状』こそを維持をしようとしているだけ。そんな日本の一方で、現代の中国さんちが現状打破を望むのはやっぱり理解できるんですよね。偉大な虎が目覚めた以上、相応の地位を得るべきであると。逆説的に、日本国内でも東アジアの「現状を打破したい」と考える人たちが安倍政権を蛇蝎のごとく嫌うのも自然に理解できますけど。
積極的現状維持勢力と、積極的現状打破勢力。そんな日米と中国にある、必然で運命的な対立構造ではありますが、これはまぁ上記日記でも書いたように歴史の必然でありどちらが正しいのかとかそういうお話ではないのです。
にんげんってそういうものだもの。
――ただ、最近の韓国さんが果たして一体なにをどこまで考えているのかという点で、単純に反日だとか親中だとかいうお話ではない、なんだかものすごく頭が痛くなってしまうんですよね。対北と反日をこじらせまくってなんだか「現状打破」まで考えていそうな彼らを見ていると以下略。まぁやっぱりこれも別のお話。



ともあれ話を戻して。結局今回の防空識別圏の騒動というのが、長年議論されてきた「中国は平和的台頭を望むのか、それとも・・・?」という判断のレッドラインに致命的なほどに踏み込んでしまっている、というのは多くの国の中の人たちの共通認識でもあるわけで。
だから尖閣の領有権問題だとか、識別圏設定の是非とかが問題の本丸ではないんですよ。むしろ些末な問題にすぎない。

台頭著しい専制国家とそれに比べれば経済に衰えが見える民主主義国家との緊張をうまく管理しながら、開かれた世界経済を維持することはできるのだろうか? この問いは19世紀の後半、帝政ドイツが欧州一の経済・軍事大国にのし上がる際に示されたものだ。

 現在、これと全く同じ問いが、共産主義国家・中国の台頭を受けて浮上している。かつてと同様に不信感が強まっており、かつてと同様に新興の大国の行動が紛争のリスクを高めているのだ。この物語が1914年にどのような結末を迎えたかは周知の通りだ。新しい物語はその100年後に、果たしてどんな結末を見せるのだろうか。

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/39362

その意味でマーティン・ウルフ先生が、第一次大戦前のドイツを引いて懸念しているのは色々と考えてしまいます。まさに彼らイギリスは大戦前の10年の間を通して、帝政ドイツに対してただの台頭する国家というだけでなく、ヨーロッパ支配を企む勢力=現状打破主義者と見なすようになったわけで。ドイツ皇帝は民主化を妨害し、労働階級を取り込むためにナショナリズムを煽ることで、軍事力と野心という意志と能力の危険な混交をもたらしている、と。故に当時のイギリスは大事なところで、ドイツに対して譲歩をすることをしなかった。
――果たして21世紀の米中関係は、あの頃の英独関係と同じコースを辿るのか?
そんなイギリス紙がこうした類推を伺わせる記事を載せるのはまぁやっぱり色々と示唆的だよなぁと。


みなさんはいかがお考えでしょうか?

*1:この辺の政権の信頼感が、例の特定秘密保護法に関するポジションの違いを生んだりするんでしょうね、というのはまた別のお話。