戦略的撤退か、それともなし崩しの後退か、それこそが問題だ

もちろん本人は大真面目に前者を考えているんでしょうけど。




http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/39738
ということで対テロ戦争以後、オバマ政権の登場当初から懸念されていたアメリカの孤立主義に関してのFTさんちの評論であります。果たしてそれは整然と行われるものになるのか否か。

 半ば孤立主義的なムードが新たに広がっていることは先週、調査機関ピュー・リサーチ・センターの世論調査によっても裏付けられた。これによると、米国人の52%は「米国は、国際的には自国の問題に専念すべきであり、ほかの国々には、自力で進める最良の道をそれぞれに進んでもらえばいい」との見解に同意しており、同意しないという回答はわずか38%にとどまった。

 ピュー・リサーチのブルース・ストーク氏が指摘するように、世論調査ではこの質問が50年近く前からなされているが、今回の結果は「米国は自国の問題に専念すべきだという方向に史上最も大きく傾いたもの」になっている。

 ストーク氏はこれを、「米国が世界のほかの国々に関与することへの支持が、過去に例がないほど落ち込んだ状態」と表現している。おまけに、外国への関与に対するこの懐疑心は、米国の政策決定を担うエリート層にまで広がっている。エリートのシンクタンクである外交問題評議会(CFR)の会員を対象にピュー・リサーチが調査を行ったところ、エリートたちの見方が一般国民と概ね同じであることが示された。

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/39738

でもまぁやっぱり上記リンク先で指摘されているように、単純に(徐々に立ち直りつつあるとはいえ)経済危機やイラクアフガニスタンの結果、そしてシリアの内戦のあんな現状を見れば当然の帰結でもあるとも思うんですよね。結果としてイラクアフガニスタンでの米国の戦争は「案の定」世界中から批判されまくったし、そして現状のシリア(及びイラクでも)なんてほとんど宗教戦争という領域に最早完全に踏み込みつつあるわけで。
――なぜ必要でもなく感謝もされないのに、我らが同国人の命を使わねばならないのだ、なんて。
ウォルトによるシリア介入反対論 : 地政学を英国で学んだ
以前から所謂リアリストな人たちから主張されていたように、それはまぁ確かに――是非はともかくとして――選択肢として想定できる戦略一つではありますよね。アメリカの軍事力はもっと効率的に使うべき=民主主義や人権などと言った目的に使うべきではない、と考える人たち。
国益と無関係ならば)他者が死んでいくのを冷静沈着に見守る。我々は危機を注視しているが、しかしそれだけ。
まぁそれはやっぱりある種の観点からは「正解」だと言うことはできるでしょう。それこそ建国の父たる人々の言葉への回帰。もちろん貿易や通商は大前提ではあるものの、しかしややこしい同盟関係に振り回される危険性を唱えたワシントンや、民主主義という大儀を掲げて国外へ怪物を倒しにいくべきではないと訴えたアダムズへ。アメリカの伝統的孤立主義


今も尚境界線上にあるとはいえ、アメリカさんち自身がそうした選択をしようとするのならば止められるモノではないし、故に私たちはやっぱりそんな「撤退」に備えなくてはならないのでしょう。出来るだけその余波を受けないようにダメージコントロールを。


まぁ問題はその『撤退』が優柔不断の果てのなし崩し的に行われるものなのか、それとも整然としたものになるのかで、まったくその後の展開は変わってしまうことが恐ろしいわけですけど。それこそ古今東西軍事史には前者のつもりがどう見ても後者コースだった、なんて事例は一杯あるわけで。
まさにこの点こそが、オバマさん政権の外交政策を考える上でポジションの違いという差異が表れやすく、同時に大きな意見の分かれ目だったりするのかなぁと思ったりします。それこそイラクアフガニスタンの米軍撤退の決定や、シリアのレッドライン宣言や、あるいはイランの核協議の問題などなど、果たしてオバマさんはどこまで考えた上でそれを決定しているのか?
――現状の見方の大勢としては、オバマさんのぐだぐだっぷりを指摘する声が多かったりするんですが。
一方でこの辺の外交政策の転換は、オバマさんのリベラルさというよりはむしろ、限りなく冷酷でリアリストな冷たい方程式によるものなんじゃないかとも言えたりするのかもしれません。(ブッシュさん時代の)戦争から、無人機作戦、そして傍観へ。確かに段階を追うごとに戦線を縮小し、アメリカの出血は小さくなっているとも言えなくはない。やっぱりそれは外国でどれだけ死のうと自身の国益に関わらなければどうでもいい、という見事に現実的な態度でもあるんですけど。
ちなみに昨日の日記の補足的なお話ではありますがアメリカの外交政策を巡る関心がこういう状況下にあるからこそ、中国が日本のルール違反を指摘することで狙う「アメリカのやる気をなくさせる」という戦術はまぁそれなりに利のかなったやり方でもあるんですよね。彼らだってまさかアメリカが中国の側につくなんて都合のいいことを考えているわけではなくて、少しでも関与の度合いを下げさせようと努力している。まぁ日本から見てもそれは解らないお話ではありませんよね。



アメリカの変化の兆しを戦々恐々と見つめる世界の国々。戦略的撤退か、それともなし崩しの後退か。
みなさんはいかがお考えでしょうか?