『東海』併記騒動の先にあるもの

日本や韓国がどうこうという問題ではなく、それが「危険な前例」となってしまうことを恐れる人たち。



時事ドットコム:米バージニア州下院委、東海併記法案を可決=米紙は社説で批判
米紙が相次ぎ「日本海」支持 米州の「東海」併記法案 下院委員会でも可決 - MSN産経ニュース
「東海」併記問題、米紙が相次いで日本支持 「バージニア州議会は教科書に干渉すべきでない」 (1/3) : J-CASTニュース
ということでいよいよバージニア州議会でも可決されたそうで、日本でもそれなりに大きな騒動となっている教科書の東海併記騒動ではあります。まぁ個人的にはバカげたことをやっているなぁとは思ってしまいますけども、しかしあれはあれで彼らにとっては自尊心や名誉の問題である以上心底本気になってしまうのでしょう。
おそらく韓国系な人たちから強烈なロビー活動があったのは間違いなくて、つまりそこにはリソース=カネが投入された。それこそアメリカの教科書に東海を併記させるためだけに。もし日本でそんなことを(対抗策として)やったら、まず間違いなく「なぜそんなことに国民の税金をうんぬんかんぬん!」と怒られるのは間違いないでしょうけども、しかし、韓国の人びとにとってはそうではない。
――この両者の認識差こそが、どちらが良いか悪いかは別として、この構図の基本的認識差の背景にあるのだと思います。おわり。




でもこんな中身のないお話だけじゃ寂しいので、そんなアメリカさんちの反応についての、以下適当なお話。

 【ワシントン時事】米南部バージニア州下院の教育委員会は3日、州内の公立学校で使う教科書で日本海を表記する際、韓国政府が主張する「東海」も併記するよう求める法案の下院案を賛成多数で可決した。一方、同日付の米紙ワシントン・ポストは「歴史教科書(にどう記述するか)は歴史家に委ねるべきだ」として、州議会の動きを批判する社説を掲載した。
 採決結果は賛成19、反対3。上院はほぼ同じ文案を既に可決しており、近く開かれる下院本会議で下院案が可決されれば、法案は両院での所要の手続きを経て通過する公算が大きい。同紙によると、マコーリフ州知事は「法案が議会を通過すれば署名する」と語っている。(2014/02/04-12:16)

http://www.jiji.com/jc/c?g=int_30&k=2014020400070

さて、そんな騒動で、予想外というかアメリカの政府や全国紙やらは、どちらかというと今回の騒動に対しては(日本側に近いポジションから)懸念を表明しているわけですよね。
私たち日本としてはこの反応をして「やった!アメリカは日本寄りだ!」と喜ぶ気持ちもまぁ理解できなくはないんですけども、ただ身も蓋もなく言ってしまえば、別にそんなことは二次的なお話でしかなくて、むしろ相手がどこだろうが「アメリカ政府」としてはそう言わざるを得ないのだろうとも思うんですよね。
――それは教育への介入という意味でもそうだし、そして州が外交問題という所にまで足を踏み入れかけているという面でも。
それこそ移民国家たる彼らにとって、そんなことを許してしまえばいつか国家の統一性の根幹にまで至りかねない。今回のバージニア州のやり方は、日韓がどうこうという問題と言うよりも、実はアメリカという国家にとってのかなり本気の地雷になりかねないんじゃないかなぁと余計な心配をしてしまう程であります。


もちろん彼らは連邦国家であり、つまりかなりの面でそうした地方=州の権限は強いわけです。しかしながら、だからこそ、そうした地域によって特定の外国との距離感に差をもたらすことは、かなりセンシティブな問題となりかねない。
連邦政府外交政策を司り、一方で州政府は自治に大きな権限を持つ。
お互いにそれを尊重しているという建前を崩さないからこそ、この関係性は維持され機能している。この両者の機能の差というのは、とても微妙なバランスの上に成り立っているんですよ。州と連邦政府の機能のバランスというのはアメリカという国家の根幹を成すものでもあり、故にその両者の権限を巡ってはそれはもう何度も大きな議論が繰り返されてきた。それこそあの南北戦争だって、そんな州権を巡っての争いでもあったわけだし。


今回の韓国の件が「直接に」こうした連邦政府と州政府のバランスを壊す事態になるのかというと、やっぱりそんなことないでしょう。もっと言えば今回のことがアメリカの外交政策に影響を与えるほどのインパクトがあるのかというと、やっぱりそうでもない。
しかし、それはむしろ国内問題として見た場合、危険な一歩ともなりかねない。だからこそ、彼らは別に日本がどうとか韓国がどうとかいう次元でなくて、それに懸念を表明しているんじゃないかと。実際、現代のアメリカさんちってそれを単純に杞憂と笑い飛ばせない状況にもあるわけで。
現状でさえ、旧来の世界各地からやってくる移民たちとは違って地理的に近い故に南部の国境地帯を文化的・社会的に曖昧にしている状況は大きな頭痛の種となってるわけで。故にヒスパニックの問題は21世紀のアメリカが抱えるだろう移民問題そのものでもある。既にそうした南部州では独自の言語=スペイン語の扱いを巡って大きな議論にもなったわけで。
つまり、例えばこれと同じことが、人口比で圧倒的多数を占めつつあるメキシコに近い南部州で「民主的に」起きてしまったら?

「究極的には公教育のシステムは納税者や、納税者を代表する議員に応えるべきだというのは分かる。しかし、(学校で)教える歴史は、(法案に賛成し、妻が韓国系米国人の)チャップ・ピーターセン議員が言うような『バージニアでは韓国人が多く、日本人は非常に少ない』という事実ではなく、歴史家のベストな判断に基づくべきだ」

「東海」併記問題、米紙が相次いで日本支持 「バージニア州議会は教科書に干渉すべきでない」 (1/3) : J-CASTニュース

だからこそ、アメリカ人たる彼らは『バージニアでは韓国人が多く、日本人は非常に少ない』という論理に一部の正当性を認めながらも、同時になんだか居心地の悪い懸念を覚えてしまうのです。
古今東西どこの隣国関係でもあるようにメキシコも「アメリカに領土を不当に奪われた」という意識は現在でも根強い。そして現在のアメリカにおいて、その「奪われた」土地でのメキシコ系の住民はもうまったく無視できない割合を占めている。現状の流れで見れば、まず間違いなく近い将来それは多数派となる。そんな状況であっても、例えばここで旧メキシコ領で「アメリカから独立しよう!」なんて論外だと言ってもいいでしょう。


――ならば、旧メキシコ割譲州たる彼らが「独自に」グアダルーベ・イダルゴ条約以前の地名で併記する、なんて言い出したら?
――また、あるいはユダヤ系が強い場所でイスラエル関連=例えばパレスチナ領土の扱いで独自の表記を取ろうとしたら?



たかだか名称、されど名称。
幸いなことに、(少なくとも米国にとっては)おそらく今回の東海の件では「たかだか」という面が強い。実際そう考えているからこそ今回のバージニアの議会でもそれが認められることになったのでしょう。
ただそれでも、韓国さんちの地道な行動が証明しているように、決してそれだけで割り切れる問題ではない。利害関係というだけでないし、感情の問題でもある。そして感情というのは政治を動かす、利害関係と同じくらい重要な両輪のもう一つであるわけで。そこから本気で政治が動きかねない。それが全体の動きとしてならばまだいい、ではそれが一部の州だけだったら?
故にそもそも「呼称の統一」というのはそうしたアメリカという連邦国家の統一性とかなり密接に関わることでもあるわけで。まぁ正直、こうした構図を考えると、韓国さんちというよりも、むしろバージニアの議会はかなり地雷を踏んじゃったんじゃないのかなぁと。故の、アメリカでのこうした(なんとなく奥歯に物が挟まったような)反発であるんじゃないかと。


だからもしアメリカに今回の件で「日本海」の正当性を訴えるつもりならば、そうしたアメリカの外交政策の統一性に突っ込みを入れる方が効果が大きいんじゃないかと思ったりします。
いやまぁ大きすぎて激怒されちゃうかもしれませんけど。


みなさんはいかがお考えでしょうか?