ノーマン・エンジェルさんの『大いなる幻想』の二面性

経済相互依存のもたらす『戦争』と『制裁』の抑止について。


http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/40099
コラム:ウクライナ情勢を憂慮しない理由| コラム| Reuters
プーチン大統領の政治的野望、ロシア経済の急所を直撃か - WSJ
ということでロシアとヨーロッパは戦争なんかにならないよ論であります。まぁこれまでの日記でも書いてきましたけども、ぶっちゃけ個人的にもそこまでいく可能性は低いだろうなぁとは思う所ではあります。どう見てもロシア経済大ピンチなのは間違いないわけで。それこそ『強いロシア』を至上命題に置くプーチンさんがそれを許容するとはあんまり思えないよなぁと。経済相互依存の進んだヨーロッパとロシアで戦争などありえないのだ(70年ぶり三回目)

 これと同じくらい重要なのは、世界はもはや、2つの相いれない政治経済体制、すなわち資本主義の西側と共産主義の東側という敵対する陣営には分かれていないということだ。ソビエト体制が崩壊した後、ロシアはグローバルな、そして資本主義の体制に加わった。今では、ロシアと西側の金融、ビジネス、社会の制度は互いに深くからみ合っている。

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/40099

ただまぁこうした無邪気な確信を見ると、天邪鬼に「それって何てノーマン・エンジェル?」と聞きたくなってしまう気持ちもあったりするんですけど。
それでも今度は、今回のウクライナこそは、そんな楽観は概ね通用しそうで良かったよね。
米国が制裁なら米銀融資の返済拒否─ロシア大統領補佐官=報道| ワールド| 米国| Reuters
http://japanese.ruvr.ru/2014_03_04/268030644/
さて置き、非常に逆説的ではありますが、このノーマン・エンジェルさんの理論の正しさを「逆から」見ると、経済的損失を恐れることが(まさに今回のロシアのような限定的な)軍事行動抑止に際しての効果的な経済制裁の包囲網作りに失敗してしまう可能性をも内包してしまうんですよね。もし仮に相互依存によって戦争を避けようとするならば、同じ理屈で経済制裁をやる側からも逃れようとするのは当然の帰結ではあるでしょう。


経済相互依存の両義性。(完全ではないにしろ)戦争自体をそれなりに抑止する代わりに、戦争抑止の行動さえも抑止する。
この辺は愉快なジレンマではあるよなぁと。


それでも、これまでどうにかこうにかそうした『経済制裁』が機能してきたのは独自に拒否するよりもずっと「アメリカの機嫌」を損ねることが大きいからこそ、各国プレイヤーたちは経済相互依存の進んだこの現代世界でそうした試みが実現してきたわけで。そんなアメリカの指導力=脅迫というのは、イラクでの制裁破りなんかあったりした中でも、まぁそれなりに機能してきたと言っていい。
――さて、果たして今回もアメリカはそんな指導力を、エンジェルさんの相互依存平和論に負けずに、発揮できるのか否か。
正直「ウクライナ情勢は憂慮に値しない」と楽観すればするほど、ぶっちゃけその「ロシアへの対抗措置」の成功は逆に悲観せざるをえないよなぁと思います。そしてその対抗措置の失敗は、おそらく将来の悪しき前例となるのは間違いない。




がんばれアメリカ。