旧ソ連の中心で「リメンバーコソボ!」とさけぶ

歴史は繰り返される、一度目は悲劇、二度目は喜劇として。


プーチン氏「これ以上の企てない」とウクライナに保証 - WSJ
クリミア併合5つの理由―プーチン大統領の主張 - WSJ
ということでプーチンさんが一気にゴールまで突っ走ってしまったそうで。いやぁ色々と面白い――というかここ20年の積年の恨みの篭った演説ではありますよね。冷戦後世界におけるルールなどクソ食らえだ、という身も蓋もない宣言。
現代国際関係における典型的な千日手のひとつ - maukitiの日記
先日の日記でも書いたように、やっぱりプーチンさんコソボなどの例を引き、彼はその住民投票を正当化した。実際、あの時のNATOも「国家の混乱」を名目にして国際部隊を派遣し、そして反対意見を無視しながら独立承認に欧米は走ったわけで。

さらに、16日にクリミアで行われた住民投票で圧倒的多数がウクライナ離脱・ロシア編入に賛成したことは、これがクリミア住民の意思である証拠だという。プーチン氏はセルビアからの独立を宣言したコソボを歴史的前例に挙げた。

クリミア併合5つの理由―プーチン大統領の主張 - WSJ

少なくともこの点においては、確かにプーチンさんの論理は一理あるのです。これまで散々『住民意思』を大義名分に政権打倒やら革命やら独立を煽ってきた欧米が、この期に及んで「元の国家の被害の事を考えていない」とか「独立は国家全体の意見で問うべきだ」とか今更何ヌルイこと言ってるんだ感はやっぱり否定できないわけで。ダブルスタンダードというのはその通りでしょう。
だからこそ、ナイ先生なんかは(民族)自決権の問題にはできるだけ関わるべきでない、と口を酸っぱくして仰っているのです。結局その『自決権と住民投票』という議論において、そこに一貫した論理的整合性というのは少なくとも現在の国際社会には存在していない。というかそれを認めるなんてことは国家の数が200ちょっとしかないにも関わらず、民族と言語と宗教の数が1万を超える人類世界において、まずありえない。
かくして大抵の場合その場のノリと雰囲気と、後は身も蓋もなくパワーがある勢力の言うことこそが「無理を通せば道理引っ込む」とばかりに正義となる。




ちなみに今回のプーチンさんの演説から見られる、過去の歴史的事例との類似ネタとしてもう一つ面白いのがあって、

ロシアのプーチン大統領は18日、国会議員と政府当局者を前に演説し、ウクライナ南部にあるクリミア半島のロシアへの編入を決定したと発表した。ただし、ロシアはウクライナの領土に対し、これ以上の企ては持っていないと同国に保証した。

プーチン氏「これ以上の企てない」とウクライナに保証 - WSJ

「これ以上の企てはない」とか、ものすごいズデーテン感。
実際、現在のクリミアの来歴とあの時のズデーテンの来歴って結構似ているんですよね。元々あった国家の消失に伴い、本来の住民分布を無視する形で新しい国境線が引かれた結果、後になってその住民感情の不満を「問題解決」と称して独立と併合が推し進められる。
焦点:EUの対ロ制裁強化は不可能か、代償恐れ及び腰| Reuters
そして傍観する選択肢がない諸国。それなんてミュンヘン*1
いつまでたってもミュンヘンの悪夢が忘れられない - maukitiの日記
こちらも以前の日記でも書きましたけど、やっぱりアメリカにしろヨーロッパにしろ、今回のロシアの暴走を許した背景として単純な戦略的失敗というよりは「事実上経済制裁以外の他に選択肢を用意できていない」方の失態がより見えてしまうのは、こちらも懐かしの風景っぽくて生暖かい気持ちに。




今回の騒動の両者のポジションの劇的な違いというのは、少なくない部分がこうした点に求められるのではないかと思います。欧米の人たちは今回の流れを見て嫌でもあのミュンヘンを思い出さずにはいられないし、逆にロシア=プーチンさんからすればそれはコソボでの論理を援用したに過ぎない。
15年ぶりの二度目の「国家混乱を名目にしての軍隊派遣」からの「無理矢理に国家独立したけど最終的地位未定」と、76年ぶり二度目の「これ以上の領土要求はない」宣言。
「リメンバーミュンヘン!」と「リメンバーコソボ!」とそれぞれに叫ぶ人びと。