敗戦国でありながら戦勝国よりも成功した国家

汚いなさすが日本きたない。その意味では、確かに「とてつもない日本」ではあります。



右傾化する人達が根本的に分かっていない一つの事実 - 誰かが言わねば
まぁ言ってることの中身としては解るんだけれども、何でこれが「右傾化する人たち」に向けてなのかよく解りませんでした。おわり。でもそれだけじゃ寂しいので以下適当なお話。

しかしここにひとつ大きな事実誤認があります。

つまり右傾化する人達は、自分達が生きている世界は「正しいことが正しいことと認められる完成された公正な世界」であるはずだと勘違いしているわけです。残念ながら我々が生きている現代の世界は「欧米を中心とする偏った価値観が幅をきかせている世界」であり、「第二次世界大戦戦勝国側が第二次世界大戦から得た利益を手放そうとはしない程度の野蛮な世界」なのです。

右傾化する人達が根本的に分かっていない一つの事実 - 誰かが言わねば

「正しいことが正しいことと認められる完成された公正な世界」こそが、現在主流の欧米リベラルな価値観の根本にあるんじゃないかと僕は思っているんですけども、こう自信満々に言い切られるともしかしたら勘違いなのかもしれないというきもちに。


そもそも、プラトン先生が『国家』の中で述べたように「あるべき国家の理想像」を定義して、その上で現実世界を出来るだけそうした世界に近づけよう、というのが西洋の政治哲学思想の基礎にあるわけですよね。所謂『リベラリズム』の根幹にあるもの。その絶対的普遍的な真理=正義。何が「良い」かではなくて、何が「正しい」かこそを実現するべきであると考える人たち。
故に西洋思想史というのはその歴史のほとんどが、理想主義的であるのです。
その意味で、(後述するように)欧米価値観に強い影響を受けている私たち現代日本人が――右傾化している人たちに限っているかは別として――そのような「正しいことが正しいことと認められる完成された公正な世界」であると考えるのは、まぁ別に殊更に異端なお話ではないんですよね。個人的にはそうした右傾化な人たちこそが、理想主義的な思想を持つサヨクな人たちを「そんなもんねーよwww」と冷笑しバカにしている構図こそが主流ではないかと思う所ではあるんですけど。
また、こうした理想主義の後退こそが、日本だけでなくヨーロッパなどでもある世界的な右傾化の要因の一つではないかと思います。




ついでにもう一点。この辺りはよく誤解されがちだなぁと思うお話ではあるんですが、

我々敗戦国の側が戦勝国の戦争責任の話をほじくり返すと、欧米各国は日本を強く警戒します。それは彼等にとって触れられたくない古傷なのです。もし我々が「正しいことが正しいことと認められる完成された公正な世界」に生きているのであれば、欧米各国は自分達の戦争責任についても認めてくれるでしょうし、日本の右傾化よりも中国の軍事費の膨張の方がより危険な問題だということにも気づいてくれるでしょう。しかし「第二次世界大戦戦勝国側が第二次世界大戦から得た利益を手放そうとはしない程度の野蛮な世界」では、欧米各国は中国の軍事費の膨張よりも日本の右傾化の方をより強く警戒します。

右傾化する人達が根本的に分かっていない一つの事実 - 誰かが言わねば

実際、私たち現代日本がこうした戦勝国敗戦国間の矛盾を明らかにしようとした際の、欧米各国が日本を警戒する理由についてまぁ上記のようなお話がまったくないわけではありません。
――ただ、理解しておかなければならないのは、そんな戦勝国の傲慢さによって完成した戦後国際秩序という世界=リンク先の言葉で言えば「第二次世界大戦戦勝国側が第二次世界大戦から得た利益を手放そうとはしない程度の野蛮な世界」という世界において、最も上手く成功した国家の一つが私たち日本であるという身も蓋もない事実であるわけで。
戦後以来の日本は敗戦国だったにもかかわらず、自身の努力と、幾らかの幸運と、そして地政学的現実によって見事にそうした戦後国際秩序を「利用して」成りあがったのです。中国に抜かれたとはいえ、今尚も圧倒的(四位のドイツのおよそ1.5倍近い)な世界第三位の経済大国である私たち。戦勝国たる彼らが複雑な思いをしているのは当たり前なんですよね。だってそもそも彼らの為に作り出した国際秩序だったはずが、何故か日本があまりにも上手く適応してしまったから。アメリカで根強くある声「アメリカは日米同盟によって日本に良いように利用されているだけじゃないか」というのはこうした所から生まれているのです。敗戦国だったくせに、戦勝国たちの都合を利用してここまでやってきた。ドイツも似たような所はあったりするんですけど。
アメリカですか? ええ、日本の番犬様であります」なんて。
こうした歴史の背景があるからこそ、最初にも書いたようなのような欧米的価値観は更に一層(少なくとも表面上は)日本に根付いたわけで。


だからこそ、日本の一部ナショナリストな人たちがそうした「戦争責任」を掘り返そうとした際に、なんだかよく解らない不信感を抱かれてしまうんですよ。だって、それをひっくり返した所で上記のように日本には何の得もないんだから。むしろそこで一番損をするのが日本自身であるとすら言えてしまう。なのになぜ?
確かに国連における『旧敵国条項』なんかもあったりしますけども、しかしそんな名目上はともかく実質には私たちはもう完全に「既得権益の側」に立っているのです。故にそこで敗戦国の日本が根本的な問題をほじくり返そうとすると、ところが事実上それは「味方を撃つ」ことにすら見られてしまう。ただ敵に撃たれるよりも、friendly fireされる方が頭にくるのは古今東西普遍の真理であります。
この私たち現代日本を取り巻く名目と実質のポジションの乖離というのは、ウケイカした人に限った話ではなく、現代の国際関係を考える上できちんと理解しておくべきじゃないかと思います。敗戦国にも関わらず、戦勝国の作ったシステムで最も成功した国家の一つ。
21世紀になって戦後国際秩序が制度疲労を起こしつつある現在では、こうした根本的な立ち位置の問題というのは更に深まっていくのでしょう。




まぁその意味で結論には同意するところではあるんですよね。

この不完全な世界でいかに生き抜くべきかを考えるなら、ムキになって靖国神社に参拝しても国際的な立場を悪くするだけで何のメリットもないと分かるはずですし、国際世論を味方につけるためにはどう振る舞うべきかも分かるはずです。隣国の挑発には毅然とした態度で冷静に対応し続けるしかありません。汚い言葉を吐いても、下品な報復をしても、こちらの立場が悪くなるだけなのですから。

右傾化する人達が根本的に分かっていない一つの事実 - 誰かが言わねば

でもそれは「正しくないのにガマンする」理由ではなくて、それこそ『野蛮な世界』でのルールを上手く利用して成り上がった国家こそが、私たち日本なのだから。