二重の意味で愚かな経営者

あまりにバカ過ぎたので議論の余地のない勧善懲悪な構図になってるという皮肉なお話。


NBA人種差別発言オーナー追放処分 NHKニュース
消えぬ人種差別 無言の抗議 NBAオーナーに選手激怒 大統領も非難+(1/3ページ) - MSN産経ニュース
まぁアメリカらしいお話と言えばその通りではありますよね。解りやすくバカげた差別。しかしまぁ80歳らしいので仕方ない面があるのかもしれませんね。どう見てもアメリカ黒人に『公民権』がなかった時代の人ではあるし。人間歳を取るとああなってしまうのだ、というのもまた差別に繋がりそうなお話ではありますけど。

NBA=アメリプロバスケットボールロサンゼルス・クリッパーズのオーナーが、黒人に対する人種差別的な発言をしたとされる問題で、NBAはこのオーナーをリーグやチームの一切の活動に関わることを禁じる永久追放処分とすることを決めました。

問題となっている発言は、クリッパーズのオーナー、ドナルド・スターリング氏が、知人の女性に対して黒人の元スター選手、マジック・ジョンソン氏との交友関係に疑問を呈し試合に連れて来ないよう要求したとされるもので、会話の録音テープがアメリカの芸能専門サイトで公開されていました。

NBA人種差別発言オーナー追放処分 NHKニュース

しかしこのお話はある意味で、解りやすく単純なお話である故に、実は解決も簡単なんじゃないかと思います。オバマさんも「無知な人間は自らの無知を宣伝したがる。米国はいまだに人種差別や奴隷制度の名残と闘っているのだ」なんて言っていますけども、やっぱりそれはただ単純に無知を晒しているだけで、徹頭徹尾この経営者がバカなだけだから。


ゲイリー・ベッカー先生が『差別の経済学』の中で述べているように、一般に差別するということは合理的な振る舞いではないわけです。例えば、能力に問題がないにも関わらずただ黒人だという理由でその医師の診察を拒否する、のは決して合理的な振る舞いではない。それと同じで、もし黒人選手が白人選手より劣る明確な証拠がない――どころか某神様をはじめ黒人の有名選手がゴロゴロしているプロバスケットボールの分野でそうすることは、はっきり言ってまったく利益にかなった振る舞いではありませんよね。ぶっちゃけ差別発言がどういうこういう以前の根本的な問題であります。本来得るべき利益を無視して、そうした個人的な趣味嗜好を表に出しているんだから。


つまり、彼は二重の意味で愚かなのです。内心の差別をわざわざ公にする無知を晒す一市民としても、そして経済的利益を犠牲にする経営者としても。
逆説的に、だからこそ、この構図はある意味で「幸せな」差別の構造と言えるわけで。問題はそんな単純ではない、その経済的利益と差別が同じ方向を向いてしまったときなんですよ。その時私たちは一体どうすればいいのか?


例えばどちらも同じ能力である男女、高い確率で出産による休職期間が発生する女性と、その可能性がゼロである男性、経営者として面接する際にどちらを採るべきか?
――少なくとも経済的利益「だけ」を見れば男性を採ることは正しい選択肢だと言えるでしょう。もちろん例外だってあるかもしれない。男性が長い育児休暇をとるかもしれないし、逆にその女性は子供を産む気が当面はないかもしれない。しかしそんなこと経営者には解らないし、まさか面接でそんなこと聞けるわけない。いや、聞いちゃう愉快な面接もあったりするんでしょうけど、それを聞くこと自体が別の形での差別でしかないわけで。どちらにしても「可能性」の問題を考えればやっぱり男性を雇うのが正しいと断言できる。
それはやっぱり、私たちの現代民主主義社会に生きる市民として『差別』と言う他ない。
ところがそれは経営者としては全然愚かな行為ではなく、むしろそのポジションにとっては合理的ですらあるのです。このような深刻なジレンマこそが現代における差別問題のめんどくさい点でもあるわけで。故にそれは政策や規制や補助手当で解決するしかない。そうなると、必然的に激しい政治論争が始まってしまうわけですけど。


で、翻って今回の件を見ると、やっぱりそんなジレンマあるはずありませんよね。まさかNBAで黒人差別なんてギャグのようなお話にしかならない。
ていうか黒人が嫌いなのは百歩譲るとして、何でこの人よりによって(そんな黒人選手が席巻する)NBAのオーナーなんてやっているんでしょうね?