再び『国内制約』こそが支配するアメリカ外交政策

今週の通常日記ネタからもう少しだけ言及。再びクリントン末期時代に回帰するアメリカ。



CNN.co.jp : 米国民47%、国際紛争への積極関与拒む 内向き志向濃く
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/40616
この辺の孤立主義に回帰するアメリカについては、数年前からうち日記でもかなり書いてきたので今更ではあるんですけども。微妙に見落としがあったなぁと思うので以下適当に。
アメリカは『正常』に戻るのか? - maukitiの日記
孤立主義へと回帰するアメリカ - maukitiの日記
とりあえず大前提として理解しておくべきなのは、この米国民の内向きな流れは決して今に始まったわけじゃないという点であります。つまり、今のような『テロ戦争』からようやく解放され自国が世界から撤退することを望むようになったのって、それこそ『冷戦後』ようやく解放されたとクリントン政権時代にもまったく同じ構図があったわけですよね。しかしそうした空気は子ブッシュさん時代になって一変した。


多国間主義と単独行動主義。しばしば対比されるクリントンさんと子ブッシュさん時代のアメリ外交政策ではありますが、その両者における最も顕著な違いの要因というのは、別にただその中の人の資質の問題と言うだけではないのです。実際こちらもしばしば指摘されるお話ではありますが、そもそも伝統的な保守派らしい子ブッシュさんが大統領選挙で訴えていたのは、クリントン時代を弱気であるどころか「国際問題への過剰な関与」だと批判し、更なる対外関係の縮小を訴えていたほどだったのです。
――ところが『9・11』が全てを変えた。
最も劇的な変化だったのは、クリントンさん時代に米国外交政策を決定的に縛っていた『国内制約』――つまり資金・議会・世論による制約――の消失であります。バルカンにしろソ連崩壊後のロシア援助にしろ対テロ戦争前夜にしろ、彼が比較的外交政策に控えめであったのは、そもそもそれが許されていなかったからなのです。そもそも国民がそれを望んでいなかった。故にその後に起きたアフガニスタンイラクにと、子ブッシュさんのあの暴走っぷりが示すのはただネオコンの暗躍だというだけでは足りなくて、むしろ第一義的にはその『国内制約』がなくなったことが大きい。
世論がテロを受けて一致団結し、議会はその声に応え、故に軍事方面に多額の予算を投入することが可能になった。
確かにその後の子ブッシュ政権はハンドル操作を誤ったというのは間違いなく、故にアメリカはとんでもない方向に暴走した。しかし、それでも、そもそもブレーキを緩めアクセルを踏むこと自体を許可したのは『9・11』を受けたアメリカ国民だったのです。まぁ結果は見事にハンドル操作を誤ったわけですけど。

ワシントン(CNN) ウクライナ危機やシリア内戦などの国際問題に対し米国民の47%が積極的な関与を求めず、逆の意見は19%であることが最新世論調査で4日までにわかった。現状の対応の程度で十分としたのが30%だった。
調査は米NBCテレビと米紙ウォールストリート・ジャーナルが共同実施した。2001年9月11日の米同時多発テロ後の世論調査では、国際問題への積極介入を促す国民は37%で、不介入派は14%だった。

CNN.co.jp : 米国民47%、国際紛争への積極関与拒む 内向き志向濃く

翻って現在。オバマさんを取り巻く状況はそれとはまったく逆の力学が働いていると言っていいでしょう。つまり、クリントンさん時代と同じ『国内制約』によってアメリカの外交政策は縛られている。軍事介入にも対外援助にもやる気のないアメリカ。やっぱりそれは大統領個人と言うだけでなく、アメリカ国民が望んでいることでもある。
正しく民主主義政治だと言ってしまえばその通りなんですけど。
その意味では、単純に現状の「やる気のないオバマ大統領」というだけの批判は、微妙にフェアではないのではないかとも思うんですよね。もちろん彼にやる気がないのも事実ではあるでしょうけど、しかし仮にやる気があったとしても、シリアやウクライナ、あるいは今後の南シナ海で現状とはまったく違う対応ができたとも考えにくい。
仮にオバマさんがハンドルを操ろうとしても、しかしブレーキはベタ踏みのままなのだから進むはずがない。


こうした米国内にある『国内制約』は、ウクライナ=クリミア危機を経ても、あるいは南シナ海の騒動を経ても、あの『9・11』のように決定的に変化することは、おそらくないでしょう。そうなると、クリントンさんから子ブッシュさんの時のように、オバマさんの次の大統領は世界からの更なる撤退を叫びながら登場するかもしれない。あるいはこれから残り3年の間に決定的な出来事が再び起きるかもしれませんが。
どちらにしても、ただ米国大統領の性質というだけでなく、それを縛るアメリカの国内制約の動向についても私たちは考えておくべきだよなぁと。
良くも悪くも、私たちは世界第一位の大国であるアメリカを無視してやっていくことはできないのだから。