求む「ヨーロッパ市民を説得する次の『大きな物語』」

かつて欧州連合に付与されていた大きな物語である『平和』にも『対米』にも価値を見出さなくなったヨーロッパ市民第三世代たち



フランス政界に激震、欧州議会選で極右政党が首位 写真1枚 国際ニュース:AFPBB News
ということで元々懐疑派勢力が強いイギリスはともかくとしても、しかしフランスでは予想されていた通りに『大激震』であります。でもまぁ日本ではあの3・11のそれを予言できていたのだのと愉快なお話がありましたけども、こっちの激震は予言するの簡単でしたよね。むしろこうならなかった方が驚きであります。
フランスが持つ欧州議会議席の内の三分の一がホンモノの欧州懐疑派という愉快な状況が現実に。

オランド大統領の側近は「教訓を学ばなければいけない」と認めた上で、「欧州(連合)を去ることなく欧州を変革することができると仏国民を説得する方法を見つけなければいけない」と述べた。

フランス政界に激震、欧州議会選で極右政党が首位 写真1枚 国際ニュース:AFPBB News

このオランド大統領側近の言葉はおそらく正しく、そしてその正解が見つからないからこそ現状がこうなっている原因そのものなのだろうなぁと。かつてあった『戦争の記憶』と『傲慢な米国への対抗心』という強力な説得ネタを喪失した果てにあったもの。欧州連合はその大義名分を失いつつある。


ヨーロッパの彼らの眼前に瓦礫となった都市が横たわり、そんな戦争の記憶が残っている内は、強大なソ連が存在している内は十分やっていけた。戦争の惨禍の記憶と平和への希求が、他の(利己的な)欲求を十分に抑えつけることができていた。そしてソ連崩壊であります。でもそれでもまだよかったんですよ。
その後にやってきたのが世界唯一の超大国となり、つまり相対的に世界で最も傲慢となったアメリカという存在があったから。彼らはそれこそこちらも第二次大戦以降からずっとあった「強力な友人であり支援者」であると同時に「バカで間抜けで成り上がりなアメリカ」というライバル心を、欧州連合プロジェクトでついにやり返すタイミングが来たとも感じていたのです。ユーロ導入に勇気づけられた彼らは、ヨーロッパ合衆国はアメリカ合衆国に並ぶあるいは超越する存在となるだろう、なんて。
でもその大義名分もユーロ危機と、そしてあまりにも控え目なオバマ米国大統領の登場によって、見事に潰えつつある。
『平和』は最早あって当然のものとなり、そして『対米』という欧州連合によって超大国アメリカを倒すというのはどう見ても不可能な状況となりつつあり、もうそれらを真面目に語る人間はほとんど居なくなりつつある現在。欧州連合を推進するための説得力としてはどちらも失われてしまった。故に当然そこで根本的な「欧州連合の意味ってだったらなんだ?」という疑問が生まれつつあるのです。


この辺の『平和復興』→『対米(挫折)』というのは実は日本でも同じような経験をしていて愉快な相似だなぁと思ったりもします。まぁ私たち日本は次に中国台頭に直面しつつあるわけですが、翻って欧州連合にとってロシアは未だに弱く、多少の危険はあるものの、しかしそれがヨーロッパ全体を巻き込むほどの脅威かというとそんなこと絶対にない。


以前ブレジンスキー先生がEU軍創設について言ったとされる言葉「ヨーロッパのために死のうというヨーロッパ人など誰一人いない。単にそれだけのことだ」をもじれば、
「ヨーロッパのために税金を払おうというヨーロッパ人など誰一人いない」まではないにしても、しかし絶対の多数派ではなくなりつつある。


がんばれ欧州連合