実際には2003年のイラクに「大量破壊兵器」なんてなかった、では2010年のイラクに「平和と安定」はあったのか?

「率直にいってイラクに平和はあったのですか?」「ありまぁす!」


米はイラク問題で国民欺いてきた、機密暴露の米兵が警告 写真1枚 国際ニュース:AFPBB News
CNN.co.jp : 米国はイラクで嘘をついてきた 外交公電暴露の米兵が非難 - (1/2)
ということでいきなりの女子宣言なんかで話題になっていたチェルシーさんが、真っ当におもしろいことを言っていたそうで。チェルシーさんのこの発言って実はイラク戦争の開戦理由の致命的欠陥だった「大量破壊兵器はなかった」と同じくらいの爆弾発言じゃないのかなぁと。

 マニング受刑者は、米軍が2010年のイラク議会選挙について、イラクの安定と民主化に向けた一歩との楽観的な見方を示していた一方で、「現地に駐留していたわれわれは、現実はもっと複雑だと痛感していた」とした上で、「私が目にした軍および外交関連の報告書には、政治的に対立する人たちへのイラク内務省や警察による弾圧の詳細が記されていた。弾圧はヌーリ・マリキ(Nuri Al-Maliki)首相の名のもとに行われ、拘束者は拷問されたり、殺害されたりすることさえあった」と明かした。

 また、陸軍で情報分析官を務めていたマニング受刑者は、イラクでの議会選挙について「米軍が選挙での汚職に関与していたことに衝撃を受けた。しかし、これら深刻な問題の詳細は、米国メディアによって捕捉されることはなかった」と述べている。

米はイラク問題で国民欺いてきた、機密暴露の米兵が警告 写真1枚 国際ニュース:AFPBB News

まぁなんというか、どうしても子ブッシュさんの大失態であった「大量破壊兵器なんて無かった」という愉快なお話を思い出してしまう構図ではあるよなぁと。彼とその周囲の人たちは見事に無いものをあるものとして自身の望む結論ありきで、見たい情報だけを見た結果、大量破壊兵器除去を大義名分としてイラク戦争にのめり込んでいったわけであります。もちろんそこでは懐疑論も少なくなかったわけですけども、多くの政府関係者、だけでなくマスコミの報道も併せて「まさかないはずない」というのが多くの見解でもあった。
――ところがまぁ、蓋を開けてみれば見事に何もなかった。自信満々に思い切りスイングしたら空振りだった。故にイラク戦争について、子ブッシュさんへの批判の多くは妥当であると言うしかない。


では、もし内実を知っていたと証言する彼――じゃなかった彼女の言うとおり、本当は2010年のイラクには全然安定化の兆しなんかなかったのに、オバマさんが自身の見たい都合のいい情報だけを頼りにして、米軍のイラク撤兵を決めていたとしたら?


なんというか、しみじみと「歴史は繰り返す、一度目は悲劇として、二度目は喜劇として」という箴言を思い出してしまう構図だよなぁと。
実際、オバマさんによる当時のイラク撤兵に関しては「概ね上手くいった」というのが大量破壊兵器の時と同じく閣僚やマスコミ等の評価でもあったわけです。もちろんそこには少なくない批判はあったものの、しかしそれはブッシュさんの失態を非難する声も未だ強くあって、ごくごく少数派でしかなかった。まさにイラク撤兵は、戦争に疲れた米国民大多数の希望でもあった。
「悲惨な内戦一歩手前にあったイラクでどうにか民主的選挙を実現し、民族対立・宗派対立は乗り越えられたのだ。もう米軍は必要ない。我が軍堂々と退場す」
そう高らかに宣言しオバマさんは米軍を撤退させ、イラク戦争を終わらせたはずなのにね。ところがあれから4年経って、ご覧の有様ですよ。
もちろんその要因といえばシリア内戦が第一義的であり、イラクの内情に直接原因を求められるわけでは決してない。しかし、それでも、現状のイラク混乱の最大の要因でもあるシーア派スンニ派クルドからなる国家分裂状態というのは、以前からそうした兆しはあったはずなんですよね。マリキ首相が(予想もつかない形で)いきなり変心した結果、というわけでは絶対にない。
前職者を「失敗の象徴」「チェンジすべき旧弊」として攻撃することで自身のイメージを確立することに成功したことを考えると、これ以上ない皮肉な結果だよなぁと。現状のイラクの要因をシリアのせいにしようとしてもやっぱりそれはオバマさん自身の対シリア外交の反省を迫られることになるし、かといってイラクの分裂状態に求めようとすると更なる地雷を踏みかねない。


もしかして、オバマさんは前米国大統領と同じミスを犯した=都合のいい情報しか信じなかったのではないか? なんて。


もしそうであれば個人の資質云々ではなく、こちらも昔から指摘される米国大統領制度の構造的欠陥そのものという方が近いのかもしれません。彼らのその硬直した官僚的な制度は、しばしば、都合の悪い情報を遮断する。独裁者から民主的政治指導者まで、どこにでも見られる権力者の情報的孤独。ぶっちゃけこっちの方が偶に出てくる「バカな大統領」よりもずっとおそろしいと言えるかもしれない。
都合の悪い情報だけを頼りにして、同じ過ちを繰り返した可能性について。いやぁ救えないお話であります。