ただ郷愁を叫ぶことを、外交政策や大戦略とは呼べない

二番底で漂流するイギリス。



http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/41090
ということで迷走を続けるイギリスさんちであります。
ユンケル氏を次期欧州委員長に指名、英の懸念に配慮も| 世界経済展望| 特集 欧州債務問題| Reuters
結局ユンケルさんが欧州委員長に選ばれたみたいで。半ば既定路線だったとはいえ、しかしこれで英国の漂流っぷりがまだ一段と際立ったイベントではあったよなぁと。反対票2票の内もう一方がハンガリーだっていうのがまたウィットに富んだお話でもありますけど。

 それ以上に厳しい現実は、米国政府から見た場合、欧州大陸と疎遠になった英国は昔のような便利な友人ではなくなったということだ。米国は迫り来るスコットランド住民投票が英国の解体の先駆けとなりかねないことを心配している。オバマ氏は欧州の重力の中心としてドイツに目を向けた。

 外から見ると、英国の外務省はかつてないほど弱く見える。ロシアがクリミアに侵攻した時、英国政府は不意を突かれた。実は英外務省はモスクワ事務所を格下げし、人員を削減していたのだ。外交の主導権は、ドイツ、フランス、ポーランドのワイマール三角連合に委ねられることになった。

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/41090

世界の英国というポジションをどうにか乗り越えた彼らが次に直面する、ヨーロッパの中の英国からの陥落。盛者必衰な歴史の常とは言え寂しいモノがありますよねぇ。日の沈まぬ大英帝国だったイギリスさんちの二番底は、ヨーロッパの中ですらも地位を失いつつある。
もちろん彼らが何か考えがあって『脱EU』唱えているならばいいんですよ。でも概ね彼らのそれは「昔はよかった」な郷愁のレベルを出ていないわけで。
まぁ本邦でも近代国家の模範としていた時代のベインズブリッジ卿から続くイメージのせいか「外交上手」という見方は少なくありませんが、しかしぶっちゃけイギリスも相応に大戦略外交政策については伝統的に迷走しまくってもいるんですよね。だからいつのも風景と言うことはできるかもしれない。
いつまでたってもミュンヘンの悪夢が忘れられない - maukitiの日記
以前の日記でも書いたように、その最も大きな失敗の一つがヒトラーに対する宥和政策=大英帝国への現実逃避であったし、逆に政策転換の最も大きな成功の一つが第一次大戦前夜でのチャーチル海軍大臣による海外植民地からの英海軍引き上げだった。
『大英帝国の崩壊』という解りやすいイベントを目の当たりにしなかったイギリスの幸運――あるいは不運 - maukitiの日記
ともあれ、こちらも以前書いたようにやっぱりなまじ選択肢と成功体験があるのが現代イギリスの不幸だよなぁと。彼らの「栄光ある孤立政策」という成功体験と、そして地政学上島国であり欧州大陸から半歩だけズレている故に、常に彼らには背を向けるか合流するかという選択肢が(現実性があるかどうかは別として)存在してしまう。
でも過去はどこまでいっても過去であり、周囲の状況が決定的に違う以上同じようにやっても成功するとは限らないし、むしろその旧戦略に拘泥したせいで失敗したことだってすごく多い。まぁそれでも過去の「よき時代」を忘れられないのが人間のサガではありますけど。



ちなみにそんな「選択肢」と「成功体験」ってそのまま私たち日本にも当てはまってしまってものすごい生暖かい気持ちにはなるんですよね。
つまり、私たち日本も同じく島国であり故にそこには対中対米という視点から(少なくとも韓国やベトナムなどよりはずっと)大陸か海洋かという選択肢の遊びの幅が大きい。そして私たち日本もイギリスと同様に素晴らしい思い出がある――戦後以来続く過去70年に及ばんとする平和政策は確かにそれ自体は輝かしい成果ではあるものの、だからといって「これから先の」成功をも担保するものでは絶対にないわけで。周囲の状況が変化する以上、ずっと同じやり方は必ずしも成功を担保しない。
――でもやっぱりイギリスのそれと同じように、日本でも過去の成功体験が強烈な説得力を持ってしまっている現状を見ると、他人事ではないよなぁとしみじみ思います。
かつて「栄光ある孤立政策」が上手くいったのだから現代でも上手く行くに違いないと確信する人びと。もちろん新しいやり方が必ずしも上手く行くわけではないものの、だからといってただただ盲目的に旧いやり方に固執するのは郷愁でしかなく、それはどう見ても外交政策大戦略とは呼べない。


まぁ他山の石にできればいいですよね。