難民こわい

逃げ場あることの光と影。


追い返しても助けても解決しない難民問題のジレンマ 第2次大戦以来最悪の状況、増え続ける難民はEUの時限爆弾に?(1/3) | JBpress(日本ビジネスプレス)
ということで書こうと思って忘れていた難民のお話。6月20日世界難民の日だったらしいですよ。
まぁこの辺のお話はポール・ケネディ先生なんかは国境を越えた国際人口大移動を「21世紀の人類にとって最も重要な問題の一つ」なんて仰っていたりもするんですよね。国境を越えた人間の移動それ自体が、多くの問題を生み出す。100年前までは先進国から途上国へという人口移動だったそれが、今は全く逆転している。もちろんそれは先進国の高齢化と途上国の人口爆発をwinwinで相殺できる好ましい一面もあるものの、しかし現代に生きる私たちはそれがどのような問題を引き起こすか概ね知っている。
まさに、アメリカやヨーロッパで現在進行形である増大する難民や移民問題に大きく揺さぶられまくっている姿を。

 確かにそれはそうだが、ただ、実際問題として、海に乗り出す難民は、現在、どんどん増えている。しかも、10年前とは違い、多くの難民が海の藻屑と消えていく実態が広く知れ渡り、これまでのEUの難民政策が冷徹であると批難が集中しているため、EUは難民に対する保護を強化せざるを得なくなっている。

 その結果、地中海では、手厚くなった救助活動を当てにした難民船がさらに急増するという悪循環が起こっている。6月6日には、たった1日で、17隻の船に乗った2500人のアフリカ人が、イタリア海軍に保護された。

追い返しても助けても解決しない難民問題のジレンマ 第2次大戦以来最悪の状況、増え続ける難民はEUの時限爆弾に?(1/3) | JBpress(日本ビジネスプレス)

でもまぁそうやって「隣の芝は青いだろう」とばかりに、現状から抜け出す方策としてそうした外国を目指すこと自体はやっぱり否定できませんよね。
――だってそれは最もてっとり早い手段なのだから。
これってある意味で社会的ジレンマのような構造を持っているんですよね。つまり、国家が発展するには個人の財産権保護し法律を遵守させインフレを抑制する「真っ当な」政府こそが必要なわけで。本来ならば国を脱出するまでに追いつめられた人たちこそがそうした政府を必要であり積極的に望むはずが、しかし、彼らはまず「10年後に上手く機能する政府」ではなく「明日のパン」が必要でもある。政府保護が最も必要であるはずの弱者たちは、しかしその境遇の弱さ故に根本的解決に向かうことができずに、難民という手っとり早い解決手段に走る以外にない。
個人利益を優先させた結果、集団利益は失われていく。神の手のなんてなかった。
それってまぁものすごく負の連鎖でありますよね。そうした人々から国を脱出してしまうからこそ、その改革のインセンティブは更に働かなくなってしまう。破綻国家はいつまでたっても破綻国家のまま。

 その彼が、今、ガーナで、EUへの侵入を試みようとする若者たちを引き留める仕事をしている。若者を無謀な航海に駆り立てるのは無知であると彼は言う。道中がいかに危険で、また、万が一、EUに辿り着いても、展望はなく、おそらくまた送り返されることを知っていたなら、誰もあれほどの苦労をしてEUに行こうとはしないだろうと。

 多くの若者は、EUにさえたどり着けば、そこは天国で、木にお金が生っており、もう後は安泰だと思い込んでいる。だから、彼らを啓蒙し、国を出なくても生きていけるように、援助をしなければいけないと彼は言った。

 確かにそれはそうだが、ただ、実際問題として、海に乗り出す難民は、現在、どんどん増えている。しかも、10年前とは違い、多くの難民が海の藻屑と消えていく実態が広く知れ渡り、これまでのEUの難民政策が冷徹であると批難が集中しているため、EUは難民に対する保護を強化せざるを得なくなっている。

追い返しても助けても解決しない難民問題のジレンマ 第2次大戦以来最悪の状況、増え続ける難民はEUの時限爆弾に?(1/3) | JBpress(日本ビジネスプレス)

なまじ逃げ道が見えてしまうからこそ、彼らにはそれが魅力的な選択肢に見えてしまう。

 そして、混乱はさらに広がり、先進国と発展途上国の貧富の差は、ますます大きくなっている。間接的にではあっても、先進国で豊かに生きる人間が、彼らの幸せを搾取しているのだろう。私たちの罪は、いろいろな意味で、やはり深いように思う。

追い返しても助けても解決しない難民問題のジレンマ 第2次大戦以来最悪の状況、増え続ける難民はEUの時限爆弾に?(1/3) | JBpress(日本ビジネスプレス)

その意味で、この言葉はものすごく冷笑的なお話ではありますが、それなりに正しくもあるのでしょう。存在そのものが罪であり、故に原罪である。
まさに私たち――といっても幸か不幸か先進国の中でも日本は突出して難民問題とは無縁でもある*1――は存在していること自体で「手っとり早い逃げ道」を用意してしまっていて、彼らは「逃げる」ことを選択しやすくなってしまった。グローバルな世界となった21世紀は、過去の時代と比べてそんな情報を得る機会は(皮肉にも支援を通じることでも)ずっと増えているし、交通手段の発達によって逃げる方法も今尚危険はあるものの、それでもずっとハードルは下がった。
――しかし、逃げずに解決する選択肢=真っ当な政府の創造の難しさはほとんど変化がない。
そりゃ誰だって逃げる方を選びますわ。
もちろんそのこと自体を責めることはできないし、当然その責任の多くは先進国にもあるのでしょう。歴史を見る限り先進国はその手助けをしないどころか、無能な政府を生み出す手助けをしている方が、多分、ずっと、多い。
まぁそれを言うと、(政府を)造るより(政府を)壊す方が簡単だったよね、というとってもありきたりで救えないオチでしかないんですけど。


21世紀の人口移動問題について。みなさんはいかがお考えでしょうか?

*1:(そんな重大な国際的危機である難民問題にまったくコミットしようとしないのに)日本の国際社会での平和国家の立場が云々とかぬけぬけと仰る人たちが一杯居て草不可避なわけですけどもそれはまた別のお話。