そこは2009年に日本の政治が通った場所だ

イデオロギー云々というよりも、「自民党以外ならどこでもいい」と「社会党保守連合以外ならどこでもいい」の類似性。


フランス極右台頭と日本 - Togetter
えー、まぁ、なんというか、もちろん最後の安部政権批判は新喜劇的なずっこけオチ部分なんでしょうけども、それだけじゃなく前半の国民戦線の解説部分でもなんだか微妙だよなぁと。
――だったら例によって例のごとくわざわざ触らなければいいのでしょうけども、ただ個人的にも「フランスの極右政党躍進」というのは日本の政治状況を見る上でそれなりに参考になる点はあると思うんですよね。まぁもちろん上記リンク先で述べられているような「日本の安倍自民の場合は、昔ながらの中道右派のような体裁を保ちつつ、確実に極右的な政策に国民を慣れさせようとしている」というとってもユニークな意見を言いたいわけではありませんけど。むしろ構図としてはまったく逆じゃないかと。第一次ルペンショックでどうにか踏みとどまったフランスを、日本は既に追い抜いて先に行ってしまっている。


以下その辺の「フランス極右台頭と日本」というお題からの適当なお話。





政治不満の受け皿として国民戦線

ルペンショックはもう一度やってくるか? - maukitiの日記
さて置き、以前日記でも少し書いたお話ではありますが、実際の所フランスで『国民戦線』の躍進が完全に青天の霹靂だったかというと、やっぱりそんなことありませんよね。それこそ最も彼らが輝いた瞬間と言えば、今回の欧州議会選挙第一党なニュースと並ぶ、あるいはそれ以上の「2002年大統領選挙で決戦投票に残った」という面白ニュースがあるわけで。
結果としてはまぁ見事に決戦投票では破れるわけですけども、しかしルペン(父)さんが10年前にフランス大統領の最終候補となったという事実を考えれば、現状のニュースは殊更驚くべきお話でもないわけで。ルペンショックは二回目なのだから、むしろ「またか」という面の方が強い。


そもそも論として、国民戦線の主張と言えば単純に反移民や反EUというだけでなく、より大きな反エスタブリッシュメントであり反エリート政治だったわけであります。その意味では彼らがポピュリストというのは概ね正しくて、左右等しくフランス政治を支配してきたパリ政治学院国立行政学院出身者の政治支配への批判として、そもそも『庶民派』であるルペンさんは支持を集めてきた。
国民戦線自体のイデオロギーはともかくとして、彼らが急速に勢力を伸ばしたのは、むしろ既存政党・政治家へのカウンターであったからなわけですよ。単純に、現状の政治に不満を持つ人の受け皿として、彼らは正しく機能した。実際リンク中で指摘されているように、彼らの支持は単純に右派だけでなく、(経済政策に失敗した)社会党を初めとする左派政党を見限った層からも支持されているわけで。
――国民戦線躍進の秘訣って、根本的にはここにあると思うんですよね。つまり身も蓋もなく、他に選択肢がなくなったから、なんとなくこれまでとは違うところに入れよう、というだけ。
まぁどっからどう見ても本邦の民主党政権誕生のプロセスと酷似しているわけですけども、個人的にはまさにその通りだと思っています。フランス有権者は、あの頃の私たちが「自民党以外ならどこでもいい」と民主党政権を選んだのとほとんど同じ理由――既存政党への不満の受け皿として勝利したのであって、ぶっちゃけ個別の政策云々は(もちろん全くないとは言いませんが)副次的理由でしかない。
その意味で、国民戦線らは正しくポピュリスト=大衆政党として勝利したのです*1。実際、上記リンク先で述べられていたような「専門家から嘲笑される個別政策」も、最終的に勝利することが可能なのはむしろ私たち日本の民主党政権の勝利こそが証明してもいるわけで。
もちろん反移民や反EUなど、むしろ「現実が彼らに追いついてきた」面は確かにあるでしょう。ただ、それでも、根本的には「既存政党への絶望」こそが国民戦線の勝利の第一要因であることを指摘しないのは、正直、国民戦線台頭についての解説としてどうかなぁと思います。いやまぁ確かにそれを言うと安倍政権オチに繋げるのはちょっと難しいですけど。



ちなみに何故、国民戦線が「2002年の大統領決戦投票進出」から「2014年の欧州議会選挙第一党」までタイムラグがあったのかというと、間にサルコジさんという風雲児が居たからなんですよね。
まさに彼は国民戦線の十八番であった「反移民」というだけでなく「反エリート政治」という支持を横からかっさらう形で、大勝利を収めたわけです。実際、彼の時代には国民戦線の得票は激減し、そして内部分裂に陥り、その後娘ルペンさんの登場まで埋没してしまうのでした。この辺も「自民党をぶっこわす」小泉さんの登場によって延命された自民党政権と、『改革』を訴えていた非自民党政権登場の関係性が類推されて愉快なお話ではあります。
――ところが、最近のことなので皆さんご存じのようにサルコジさんは見事に失墜してしまうわけです。
フランスは本来あった左派政党*2への絶望だけでなく、右派政党までも絶望されることになった。だったら第三の選択肢だとばかりに、無垢な国民戦線の時代再びやってくる。一度やらせてみればいいじゃないか。ここで国民戦線に更なる追い風が吹いていて、あのサルコジさんって(フランスでは異端な)強烈な欧州連合主義者で新米派だったわけです。ところが彼が劇的にコケることで、その反EUという主張まで勢いを持つことになってしまった。そして国民戦線が元々持っていた「反EU」とここで強力に結びつく。


かくして国民戦線による欧州議会選挙第一党という現実に行き着いた。


ということで確かに、フランスの政治状況から日本政治への教訓を読みとる=振り返ることは可能だと思います。それは何か?

  • 有権者が既存政党に根こそぎ絶望すると、消去法としてエキセントリックな政党が選ばれてしまうよ」
  • 「そしてその後にやってくるのは、まともな対立候補=野党が居ない故に(再度の消去法によって再び登場した)政権政党に、やりたい放題されてしまう危険性があるよ」
  • 「そしてそれがコケるとまた政治への絶望が深くなり、最初に戻る」

この負の連鎖を抜け出すにはカウンターとなるべき「まともな」野党の存在なんですけども、まぁお察しであります。ここでフランス現与党である社会党が無様なコケ方をしたら、おそらく現在の日本の政治状況と同じ道を辿るだろうなぁと。まぁやっぱり我が身を振り返ると耳の痛いお話ではありますよね。なのでフランス政治から教訓を読みとると言うよりは、むしろフランスの方が日本の政治状況から教訓を見るべきだと思います。
イデオロギー云々の類似性ではなく、既存政党への絶望こそがもたらす政治的混沌は、まさに私たち日本が既に通った道なのだから。


日本の政治から見る、フランス極右政党の躍進について。
みなさんはいかがお考えでしょうか?

*1:ちなみに彼らが90年代以降大衆政党へ舵を切った結果、本来の極右的な支持層は離反したりもした。

*2:こちらもちなみに、フランスと言えば世界で最も最初に左派政党=社会党が死んだ国と言われるわけですけども、それはまぁ別のお話。