企業「を」飲み込む中国と、企業「に」飲み込まれるアメリカ

エコノミストさんによる上手なポジショントークの一例。



http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/41612
うーん、微妙なお話かなぁと。半分は概ね正しいものの、その半分が正しい故にもう半分の解説がタチが悪すぎて笑うしかない。

 恐らく、この問題の最も有害な側面は、秘密性と不透明さだろう。事件の詳細が公表されることは決してないし、いったい誰が――心と体を持つ特定の誰かが――責めを負うべきだったのかも分からない。問題が法廷で争われないため、判例が確立されず、厳密には何が違法なのかも判然としない。それにより今後のさらなる恐喝が可能になる一方で、法の支配が揺らぎ、大きな代償を払うことになる。

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/41612

もちろんその手続きやカネの使い道について、透明性や公開原則が必要だと言うのはまったくその通りであるでしょう。民主主義社会に生きる私たちであればこそ、その大原則を否定できるはずがない。


一方で、ただただ企業が「規制」による無力な被害者である、という風に描写するのはまったくフェアなお話ではありませんよね。

 中国の司法制度では、企業に対して法が恣意的に適用されている。だが、米国がそれを非難することは、到底できないだろう。いまや当の米国の司法制度が時折、ほとんどそれに劣らぬ酷い様相を呈しているのだから。

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/41612

この言い方だと、まるで中国と同じレベルで「政府が企業を飲み込もうとしている」みたいじゃないですか。ところが99%の一般市民が怒っている――概ねその怒りは正当でもある――現実=特に米国政治の内実としてはむしろまったく違いますよね。
そのどうしようもない現代民主主義政治の現実といえば、企業が(カネを使って)政府を飲み込もうとしている、のであってその逆、政府が(カネを奪って)企業を飲み込もうとしているのではまったくない。


だから多くの面で上記リンク先で紹介される『規制』による多額の賠償金って彼らの自業自得なんですよね。ただここで重要なのは、悪いことをしたから当然の報い、というわけではない。
例のトヨタの事例なんて端から見ていればほとんどそのまんまだったように、曖昧な事故追求によって彼らは「和解」した。でも結局あれって彼らは米国政治への影響力=ロビー活動=献金量でライバルに負けた、ということでしかないのです。問題はそうした『規制』が恣意的に――ぶっちゃければカネの力によって企業間のパワーゲームに使われていることなんですよ。
その『規制』の運用はロビー活動によって決定される。
この構図を「政府による収奪」とするのはまったくフェアではありませんよね。むしろ彼らはその争いの漁夫の利を得ている構図に近い。どちらがより悪いか、と聞かれると困ってしまうお話ではありますが。ただここで中国の収奪的な政治を並べてみせるのは、仮に結果としては同じであっても、ミスリードがひどいお話だよなぁと言うしかありません。
まぁエコノミストさんちのポジション的には正しいのかもしれませんけど。


中国当局、車部品日系10社に罰金200億円 独禁法違反 写真1枚 国際ニュース:AFPBB News
米選挙資金、4800億円超で過去最高に 大統領・上下院選 写真2枚 国際ニュース:AFPBB News
あちらは政治が強すぎるのが問題で、こちらは企業が強すぎることこそが問題なのにね。最終的に出力される結果は同じでも、中身の構図はほとんど真逆ですよ。ただ、やっぱりその解決策の一案が透明化と公開原則であるのは正しいと言えるでしょう。この要点部分は適切である故に、上記のようなことを――天然なのか狙ってるのかは解りませんがでも多分後者――言うのは一層タチが悪いよなぁとは思ってしまいますけど。


ということで、偶にでてくるエコノミストさんちのガッカリ記事、というよりもむしろタチの悪い記事でした。
まぁ世界に冠たる高級紙でも偶にはあるよね。