これは世界にとっては小さな一歩だが、一人の人間にとっては偉大な飛躍である

「選択の余地がなくなった」ことの不運、あるいは幸運。


CNN.co.jp : オバマ米大統領演説、シリアに空爆拡大へ
コラム:出口戦略なき米国の「イスラム国」掃討作戦| Reuters
ということで『9・11』前夜になされたオバマさんの「シリアもまとめて空爆やっちゃうよ」演説であります。

[10日 ロイター] - オバマ米大統領が演説を通じ、シリア領内の「イスラム国」に対する攻撃を表明することで、米国民は紛争に巻き込まれることを覚悟するだろう。しかし、出口戦略を一体どうするかの方が実際には問題だ。

コラム:出口戦略なき米国の「イスラム国」掃討作戦| Reuters

演説を聞いた多くの識者が指摘するように、まぁ戦略性に欠け場当たり的で今更感一杯な対応だというのは概ねその通りかなぁと。そうした現状をいかにして上手く誤魔化せるかが演説ライターのお仕事ではあるんですが、成功しているかというと、うーん……微妙。


皮肉なお話ではありますが、アメリカに犠牲が出ることでようやく、オバマさんは最初の「関与するか否か」というハードルは越えることができたのだとやっぱり思います。世界にとっては今更すぎる小さな一歩ではありますが、やはりこれは自制を旨としてきた彼にとっては大きな一歩でしょう。
――そして次にやってくるのは、ずっと難しい議論である「どうやって、どの程度関与するのか」という問題であるわけですけど。
むしろこれまでは、出口戦略まで含む海外関与議論の本質であるその問題に(自身の過去の発言から)答えが出せない故に、最初の問題の答えも出せずにアメリカ=オバマさんは前にも後ろにも動けなかったわけです。思慮深いオバマさんだからこそ、そもそも必要である戦略が存在しない故に動けなかった。
でもそんなモラトリアムは、とうとうアメリカ人の犠牲が出ることで強制的に終わることになったのでした。最早悩んでることもできなくなってしまった。戦略があろうがなかろうが、関与する以外になくなってしまった。まさかここでアメリカが「弱い」と見られることは、彼の個人的な意見はともかくとして、ただでさえ半死半生なオバマ政権にとって「国内政治的に」許されるはずがない。


戦略があると言いながら実際にはクソのような戦略で反撃に打ってでたブッシュさんと、戦略がないことを自覚しながらも反撃せざるを得なくなりつつあるオバマさん。正しい意味での確信犯であったブッシュさんと、誤用の意味での確信犯となりつつあるオバマさん。いやぁどっちがマシかと言われると困ってしまいますよね。
このままじゃAfPakの二の舞をダンスっちまうぜ - maukitiの日記
その答えの出せない戦略の根幹について。あの時のアフガニスタンではパキスタンとの国境地帯にあるキャンプこそが重要で、テロリストの国境往来を如何にして抑止するかが問題だったのに、結局それを最後まで解決できなかった。攻撃対象となる国にある国境外の『聖域』問題。まさにパキスタンは完全な味方でも、完全な敵でもなかった故に最後まで解決できなかった。複雑怪奇な現代世界では敵か味方かなんて、解りやすい黒か白かで分けられなかったのです。そうしたことを理解しようとしなかった子ブッシュさんの外交政策の瑕疵の一つは、そんなバカな思いこみをしたことであったのでした。
翻って、現在のイラクとシリアはそっくりな状況に陥っているわけで。イスラム国の敵はアサド政権である以上、敵の敵は味方か? と言われてもやっぱりそう簡単には頷けないし、ついでに言えばイランもそうでしょう。かといってシリアを「アサド政権ごと」焼け野原にすることも非現実的です。現実世界では二者択一のアプローチなんて幻想でしかない。
子ブッシュさんが(ついでに言えば就任直後のオバマさんも)苦労した「国境外の聖域」という泥沼に、しかし解決策が未だ見えないまま(それを自覚したまま)また足を踏み入れようとするオバマさん。


そんな有様でも、こうして答えが出せた、出さざるを得なくなったのは――少なくともアメリカ以外の当時国にとっては――小さな進歩ではあるとは言っていいでしょう。とにもかくにも、ようやく、世界で唯一イスラム国を止める意思と能力を併せ持つアメリカが腰をあげつつあるのだから。どれだけ口を動かしてみても、現実にはアメリカ抜きで彼らを止めることはやっぱり不可能です。まぁやっぱりそこにまともな戦略があるのかというと、おそらくは子ブッシュさんの時と同じレベルで「無い」し、限定的空爆だけではイスラム国を効果的に抑止することはまず不可能なので、どこまでいっても小さな一歩でしかないんですけど。
それでも、オバマさんのこの政策転換は、少なくとも米国内や大統領個人にとって大きな一歩なのだと思います。それが幸運なのか不運だったのかは解りませんけど。


故に、世界にとって小さな一歩でありながら、アメリカにとっては大きな一歩なのだろうなぁと。あれから13年目の決断について。
みなさんはいかがお考えでしょうか?