実行不可能な最大限ではなく、実行可能な最小限を

でもルーズベルトになれそうにないオバマさん。



世界の脅威に策を持たないオバマの危険なミニマリズム | アメリカ | 最新記事 | ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト
先日のオバマ演説に対する批判的な評論。よく本邦でも無闇やたらにレッテルが貼られるのとは違って、ガチネオコンなケーガン先生なんかを引いている辺りまぁアレな感じではありますけども、しかし演説の印象に関してはそれなりに同意するところではあります。
皮肉なことに、オバマさんのやり方というのはウォルト先生のようなガチリアリスト――世界がどうなろうがアメリカの優位さえ保たれればそれでいい――が訴えると所とほぼ同じ所に着地しているのがなんともかんとも。ある種の理想主義とは真逆にある現実的な一国平和主義の姿。まぁしばしば「冷徹な」と形容されるオバマさんらしいと言えばやっぱりらしいんですけど。

しかし親オバマ派は、彼の外交政策を擁護するために奇抜な論理を考えついた。政治評論家のピーター・バイナートはオバマの政策を「果敢なミニマリズム」と呼ぶ。オバマが本当に反撃するのは、米本土に直接の脅威がもたらされた場合だけだという。「シリアで多大な犠牲が出ても、タリバンアフガニスタンを動揺させても、イランが核兵器を持っても構わない。オバマアメリカ国民に危害を加えるであろう相手にだけ剣を抜く」

世界の脅威に策を持たないオバマの危険なミニマリズム | アメリカ | 最新記事 | ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト

ともあれ、ただまぁそうした面があったとしても、こうした擁護もまたそれなりに理解できるお話ではあるかなぁと。実際、そんなオバマさんの真逆にあったのが前大統領だった子ブッシュさんだったわけで。前任者へのカウンターこそが現大統領オバマさんの政治的正当性であることを考えれば、こうした擁護は効果的ではあるでしょう。
前任者は実行不可能な壮大な中東新秩序を訴え、現任者は実行可能な必要最低限の封じ込めを訴えた。
――実行不可能なマキシマリズムと、実行可能なミニマリズム
どちらがマシかと言われると、後者の方がまだマシだと言うことはできるかもしれない。




ちなみに、こうした「果敢なミニマリズム」の前例であり米国大統領として成功した先駆者であったのが、第二次大戦時のフランクリン・ルーズベルトだったわけですよね。アメリカ史上最も偉大な大統領だとされる一人。おそらくこのオバマ擁護というのは、彼を念頭に置いた言葉なのだろうなぁと。

 激動の時代である。いま必要なのは、第二次大戦後に現れたような実行力と先見性のある指導者だ。安全保障の構造や同盟関係を再構築することも重要だ。世界もアメリカも、自ら時代を形作る大統領を求めている。

世界の脅威に策を持たないオバマの危険なミニマリズム | アメリカ | 最新記事 | ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト

まさに彼は優れた実行力と先見性をもって、戦後秩序の根幹である国際連合に(前回ウッドロー・ウィルソンが失敗した)アメリカを参加させることに成功し、主導的な役割を果たすことに成功した。ただ、実際、彼の成功要因というのは単純にそうした個人のカリスマ性からきているわけではなかったのがこのお話の悲しい所でありまして。そもそもルーズベルトさんが何故ああした偉大な業績を残せたのかといえば、それはもう徹頭徹尾「国内の党派対立」を乗り越えることに全力を注いできたからなわけです。今も昔もどうしようもないアメリカ党派対立。
ウィルソンがつき ルーズベルトがこねし 介入餅 座りしままに食うはトルーマン - maukitiの日記
去年の日記でも少し書いたように、ルーズベルトは第一次対戦後の『国際連盟』プロジェクトが失敗したのは国内政治対立をの越えられなかったからだと正しく見抜き、そのハードルを乗り越える為に全力を注いだのです。民主党共和党の双方から受け入れられるように政治的根回しをし、妥協することをためらわなかった。
――実行不可能なマキシマリズムと、実行可能なミニマリズム
まぁそうして生まれたのが現在全く役に立っていない、妥協の産物である『国際連合』なわけですけど。それでやっぱりも無いよりもずっとマシではあるでしょう。実行可能な最低限を見事に実現して見せた。


ルーズベルトさんにあった実行力と先見性。つまり、目指すべき大戦略と、それを党派対立を乗り越えながらも実現できるだけの政治力。
それこそ「あの」前大統領のように、とにかく大きなことを言うのは簡単で、同時にまたそれと同じくらい何の見通しもないまま場当たり的にだけ対応するのだって簡単なんですよ。ほんとうに難しいのは、実行可能な最低限を見極めそれを実現すること。
結局、そんな実行力と先見性の二つがあってこそ「果敢なミニマリズム」は実現したのです。でも、悲しいことにその二つって、ぶっちゃけ妥協を嫌い党派対立解消なんてまったく気にしないオバマさんに決定的に欠けているとされるものなんですよねぇ。


――にも関わらずオバマさんをそう擁護するのは、なんだか一周回って皮肉な話ですよね。
みなさんはいかがお考えでしょうか?