最小限で必要十分な『モラル』の根源へ

でもそれは孤立への道でもある。


「モラル」ある行動は宗教を信仰しているかどうかに関わらず一定の確率で生じる - GIGAZINE
個人主義相対主義こそが支配する欧米先進国でそれをやったらこうなるのも無理はないよねぇと。

この研究で明らかになった結果は非常に興味深いもので、例えばモラルある行動をとったという場合には「思いやり」がそのベースにあったとのことですが、インモラルな行動の場合はその動機はさまざまで、そのほとんどが「悪意」だとか「不当さ」、「不正」などが原因になっていたそうです。

「モラル」ある行動は宗教を信仰しているかどうかに関わらず一定の確率で生じる - GIGAZINE

この辺は何度か書いてきたアンナ・カレーニナの法則を思い出してしまいます。「幸福な家庭はどれも似たものだが、不幸な家庭はいずれもそれぞれに不幸である」からの「モラルある行動の理由は単純だが、インモラルな行動の理由はいずれも様々である」なんて。


上記リンク先の冒頭でも述べられているように、元来『モラル』というのはそれぞれの社会や宗教や文化によって、様々な形であるものだったわけです。そうした集団独自のモラルを守ることこそが、それぞれの帰属を示す象徴でもあった。我々はとあるモラルを守っているからこそその一員である、なんて。
――ところが、私たち現代日本人もそうであるように、まぁ現代社会ってそういうのって流行らないんですよね。
相対主義の世界に生きる私たちは(未だ残る一部の例外を除けば)基本的には他者のモラルの是非について争うなんて不毛だと思っている。だってそんなことをしたら、自分自身に対しても他者から口を出されることに繋がってしまうから。他人に自分の事を口を出されたくない、だから自分も口を出さない。
すばらしきモラル相対主義の世界。
デュルケーム先生がかつて仰っていたような、現代社会で人々を一体化させる唯一の価値観というのが『個人主義』だったっていう愉快なお話。


そしてそんな相対主義な世界で最後に残ったモラルの源泉が「思いやり」というのはとっても興味深いお話ですよね。リチャード・マーヴィン・ヘア先生*1なんかが仰っているように「モラルある行動」というのは結局の所、自らの私的利益を越えた視点から考えて行動する、という所に行き着く。究極の道徳的判断とは自らの立場によって変化するものではない、と。その点からすればこの実験結果の「(他者への)思いやりがベース」というのは、様々な社会で様々な形で存在してきたモラルが、人間にとっての最も普遍的なモラルの定義に回帰した、ある種の現代社会の象徴らしい回答なんじゃないかと。宗教や伝統文化などが既に衰退しつつある現代だからこそのもの。

また、多くの場合モラルある行動は道徳的な考えにコミットしているものですが、普段モラルある行動を取ることで「多少であればインモラルな行動を起こしても良い」と勝手に自分の行動を正当化していくことにもつながる、とのことです。

「モラル」ある行動は宗教を信仰しているかどうかに関わらず一定の確率で生じる - GIGAZINE

それこそ、こうした「善の貯金」による正当化だって、つまるところこの論理が意味しているのは、ほとんどそのまま自身の内心に『罪悪感』を覚えていることの証明でもある。私たちはモラル=思いやりを発揮できなかったときに、とっさに自己弁護してしまう。日頃良いことをしているから許されるだろう。でもその振る舞いって、ごくごく自然に善意(それと多少の悪意)があるただの凡人であることの証明なんですよね。
所謂「ホンモノ」な人たちといえば、そんな自己弁護を必要とするような罪悪感すらそもそも覚えないのだから。


相対主義個人主義の広まりによって、モラルが「思いやり」という根源的で素朴な所へ回帰しつつある現代社会。ある種の理想主義な平和な世界を信じる人にとっては、多少なりとも希望を見いだせる結果なのかもしれませんね。でもまぁそれって別の見方をすると、道徳的個人主義の蔓延でありつまるところ人間の本能の一つでもある集団帰属という思いが満たされないという意味でもあるんですけど。
ただ「思いやり」を相互に提供しあう社会だけで満足できたらよかったのにね。しかしそれはあまりにも曖昧で普遍的すぎて、最初に書いたように何かコミュニティに属しているとはとても言えない。同じ(ローカルな)モラルを共有するからこそ、古今東西の人類社会は結束と一体性を保ってきたのだから。かくして私たちは、個別で独特な価値観にコミットしない故に、現代社会の個人というのは必然的にバラバラに孤立していくのです。
個別でローカルなものではなく、普遍的な(最小限で必要十分な)モラルしか持たない故に。


それはいいことなのでしょう。たぶん。きっと。おそらくは。
みなさんはいかがお考えでしょうか?