失敗したら責められ、成功しても何の得にもならない

また武力介入の政治的泥沼へ。かつてユーゴで見た光景。


http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/41825
まぁ概ね仰るとおりかなぁと。どう言い繕おうが、シリアもイラクアメリカが動かなければ何もできなかったわけで。あれだけ文句を言っておいて、結局最後はアメリカ様頼みするしかないっていう現状。

 米国民は、こうした超大国の定めに不平を言うだろう。もちろん、欧州の同盟国にもできることはある。言うまでもなく、アジアの新興国も世界秩序を支えなければならない。だが、米国が関与を続け、必要に応じて正しい側を力で支える姿勢を示すことは、明らかに米国民の利益にもかなう行動だ。たとえそれが、世界の暴君やテロリストにさらなる悪行を思いとどまらせるためだけだとしてもだ。

 ISを抑え込むという任務は、長く厳しいものになるだろう。だがそれは、米国以外の国には考えることすらできない任務なのだ。オバマ大統領がその任務を再開したのは正しい。次は、最後までやり抜かなければならない。

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/41825

アメリカにしか出来ない任務という性質は、だからといってアメリカが積極的に動かなければいけない任務という意味では決してない、というのがこの構図で決定的に愉快な所ではありますよね。


この辺は冷戦終わってすぐに始まった一連の『ユーゴスラビア紛争』の介入問題の時に、既に明らかになったお話ではあるのです。
つまり、もしその空爆戦略が上手くいかない時のアメリカ自身の地上軍派遣のリスクは必ずあるし、一方で仮に成功してもその後の監視役はひたすら重荷にしかならない。ぶっちゃけアメリカ大統領――ついでに大多数のアメリカ国民にとっても、その紛争介入は政治的に何の得点にもならない。まさにあのセルビア人とアルバニア系の憎しみの連鎖を抑制するための『KFOR=コソボ治安維持部隊』なんて、もちろん徐々に縮小しつつあるもののもう15年目ですよ。おそらくこの後『イスラム国』を無事に制圧できたとしてもその後の空白地帯を監視し平和維持することは、それと同じかそれ以上に大きな負担となるでしょう。誰がそのカネを払うの?
一方で、もしこれが致命的に失敗し「米軍兵士が」イスラム国に処刑されるとなれば、それはもう政権と致命的なダメージとなるのは間違いない。成功しても大してリターンはなく、失敗すれば大きなリスクだけがある。
そりゃ孤立主義も流行ってしまいますよね。


その意味ではこれまでも何度か日記書いてきたように、『9・11』という例外期を経てついに、それ以前にあった冷戦後の米国外交政策という従来のポジションに戻ってきたなぁと改めて思います。前回のイラク戦争というよりは、ユーゴスラビアに似た光景へ。
冷戦を終わらせた父ブッシュ時代に既に辿りついていた「激動の世界に対する諦観」というまさに現在見られるようなアメリカのポジションへ。

「冷戦後の世界は混乱ばかりで、前向きの選択肢はほとんどない。後ろ向きのものばかりだ。この際、すべて無視した方がよい」*1

ちなみにこうした父ブッシュさんの後に、当初こそ介入を訴えたものの(まさに今のオバマさんのように)結局なし崩しにユーゴ空爆へと舵を切ったクリントンさんがやってきて、その後に「米軍を治安維持に使うなんて無駄だから撤退しよう」とする子ブッシュさんが登場するのでした。そして彼は前々政権・前政権から続いてきた同じ性質の『負の遺産』であるイラクをも究極的に解決を目指そうとしてしまったわけで。


さてオバマさんの次は、どんな大統領候補が、どんな外交政策を掲げてやってくるのでしょうね?

*1:『静かなる戦争』上P77