チャーチル・パラレルな悲劇

昨日の続き的なお話。てか最近この関連のお話ばっかな気がしますけども、一部変人が盛り上がっているということでひとつ。父ブッシュ→クリントン時代の外交政策の迷路に、見事に嵌まり込むオバマさん。


逆転しつつある「オバマ」と「ブッシュ」の評価 | ハフポスト
ということで外交政策に関してボロクソに言われまくっているオバマさんではあります。あの『ノーベル平和賞』と併せて「子ブッシュ以下」だなんてまぁヒドイ言われようではあります。受賞当初から指摘されていたように、やっぱりあの平和賞はオバマさんの足枷となっちゃったなぁ感。

 そこに描かれるオバマは、シリアの毒ガス使用について、記者団との懇談で不用意に「越えてはならない一線」(red line)を口走り、いざその「一線」がアサド政権に乗り越えられてしまうと、1人では対シリア軍事行動に走れず、キャメロン英首相の同道に頼る。キャメロンが英議会に肘鉄を食らわされ開戦への参加は不可能と分かると、今度は米議会に開戦決断の下駄を預けるが、議会とろくにコミュニケーションも図れない。明らかに大統領職失格者だ。

逆転しつつある「オバマ」と「ブッシュ」の評価 | ハフポスト

でもまぁ仕方ないよね。だって別にオバマさんはその外交手腕を買われて米国初の黒人大統領になったわけじゃなかったのだから。
オバマさんのこうした外交上の迷走は、単純にそれだけで米国大統領失格なのかというとやっぱりそうではないんですよね。昨日の日記でも言及したように、単純な「黒か白か」で色分けできていた冷戦時代とは違う、誰が味方で誰が敵か複雑な国際関係の世界に生きている私たちに国際政治のコンパスは存在しないのです。そこで上手くかじ取りをできることを米国大統領に期待するのはぶっちゃけ高望みというものでしょう。
それこそ私たち日本だってロシアや中国を筆頭に、彼らを完全に敵と見ることはない一方で、完全に味方と見ることだってできないわけで。そのバランスを取ることはまぁ非常に難しい。


実際、これは冷戦以後の歴代米国大統領たち――幸か不幸か『9・11』に遭遇した子ブッシュさんは除いて――が皆抱えてきたジレンマではあるのです。そして、おそらく歴代政権の中でもトップクラスに外交政策の専門家が揃っていた父ブッシュ大統領さえも、あるいはその後のクリントンさんでも、まったく同じように苦労した問題なのです。頻発する地域紛争では、誰が味方で誰が敵か解らない。ロシアは? 中国は? イランは? シリアは? エジプトは?
――『9・11』という例外期を経て、これまであったそんな既定路線に戻ってきただけ。レスリー・ゲルブ先生なんかが述べているように「茶碗の中の戦争」が頻発する時代へ。
心底不運あるいは自業自得なのは、オバマさんの登場に際しては、そうした事実がまぁものの見事に忘れ去られていたという点なのでしょう。彼を望んだ有権者も、あるいは米国以外の人々も、そしておそらく彼自身でさえも、2009年以降こんな複雑な国際関係を渡っていけるだけの外交素養をもった米国大統領が必要になるなんて思っていなかった。
良くも悪くも「アンチ子ブッシュ」な外交こそが求められた結果が、ご覧の有様ですよ。子ブッシュさんのあの有名な「お前はテロリストの敵か味方か」を否定したら、今度は誰が敵か誰が味方か解らなくなってしまい前にも後ろにも進めなくなったオバマさん。「チェンジ!」したらものすごいカオスが待っていた。
オバマさんなんて国内問題はともかく外交については文字通り「素人」でしかなかったわけで。こんな複雑な国際関係が浮上するって解っていれば「黒人初」という栄誉は、いっそパウエルさんの方がマシだったかもしれない、というのはちょっと面白い歴史ifではあるかもしれませんね。まぁあの人共和党員なんですけど。


それこそかつて冷戦時代の米国大統領選挙では「外交的に敵(共産主義)に立ち向かえる人物であるか否か」こそが最大の焦点でした。共和党民主党はその点こそを証明し合い、お互いに資質に欠けると非難しあっていた。ところが現代ではそんな素養が問われることはまったくない。むしろ国内問題こそが最重要の焦点なんですよ。クリントンさんも、子ブッシュさんも、オバマさんもそうやって大統領選挙を勝ってきた。
だからこそ見事に冷戦を終わらせてしまった父ブッシュは、国内問題こそが最大の焦点へと変化した米国大統領選挙で、若きクリントンさんに劇的に敗北した。まるで第二次大戦で英国を勝利に導いたチャーチルがアトリーにあっさり負けてしまったように。戦争の英雄的指導者が、戦争に一区切りつけてしまったからこそ、その後の民主的選挙であっさりと負ける『チャーチル・パラレル』として。


別に子ブッシュさん時代が外交巧者であったと言うつもりもありませんけども、しかしイラク戦争の失態を通じての「国外から国内」という形での「求められる大統領像」の劇的な転換を見ると、これも一つのチャーチル・パラレルの類似例であるのかなぁと思ったりします。
もう戦争なんてコリゴリだから、ひたすら国内問題にこそ注力する大統領こそを素朴に願った帰結。元から内向的だったその希望は、更なる勢いを得てしまった。
そして、大転換の結果が現状のあまりにもあんまりなアメリ外交政策の迷走だったと。結果論で批判はできますし、当時からアメリカが撤退したところで何も変わらないと言っていた人たちは少なくありませんでしたけども、まぁここまで見事に「ザ・混沌」な中東情勢が現出するなんてことをオバマさん登場時に予想できた人は少なかったんじゃないでしょうか。


さて置き、その上で前回日記の終わりでは、

さてオバマさんの次は、どんな大統領候補が、どんな外交政策を掲げてやってくるのでしょうね?

失敗したら責められ、成功しても何の得にもならない - maukitiの日記

なんてことを書いたわけですけども、だからといって今後の米国大統領選挙でまた外交政策が焦点になるなんてことも多分ないでしょう。おそらく、この複雑怪奇な国際関係は「より一層」背を向けようと考えるベクトルとなるだろうなぁと。単純にやる気の問題というだけでなく、これまで外交問題に関心があった人たちまでもがあまりにも複雑である故に「無視しよう」という諦観へ。私たち日本でもそう考える人はかなりの多数派ではないかと思うので、そう考える米国世論をあんまり責められませんよね。


みなさんはいかがお考えでしょうか?