そして外交政策を財務大臣が決める時代がやってくる

もう既にちょっと来てる。


http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/41977
ということで所謂『戦間期』に直面したイギリスの小さな紛争が積みあがっていった苦難と、現在のアメリカの苦境との比較のお話。中々面白いし、まぁそれなりに頷けるお話かなぁと。浅学故名前くらいしかほとんど知らなかったデイヴィッド・レイノルズさんの本も興味分野どストライクなのできちんと読んでみたいなぁと思いましたけども、邦訳皆無じゃないですかー! 英語か……。

僕らはいつも戦争の間に生きている(戦間期に関する随想) - リアリズムと防衛ブログ
ともあれ、何か書くネタがあるとすればこの辺かなぁと。先日も『リアリズムと防衛ブログ』さんも書いてらっしゃった戦間期を巡るお話。私たちはいつだってその戦間期が(有限の)戦間期であることを見事に見誤ってしまうというお話。

 しかし、本当の問題は、英国が直面していた問題が本質的に解決困難だったこと、そしてつぎ込める資源に限界があったことだ。

 2番目の教訓は、自国政府の財政が逼迫し、国民が厭戦的になっている場合には、世界の警察でいることが普段よりはるかに難しいということだ。1919年、オスマン帝国が崩壊した後に英国の支配領土は過去最大となった。しかし、第1次世界大戦の後、英国は疲弊し、さらなる紛争に対する意欲は乏しかった。

 この10年間のイラクアフガニスタンの戦争は、それに比べれば小さな問題だ。だが、2つの戦争はこれ以上紛争に巻き込まれたくないという似たような厭戦ムードを米国に残した。

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/41977

まぁ当たり前と言えば当たり前のお話ではありますよね。上記リンク先でも引用されるヘンリー・ウィルソンさんが参謀総長として当時政府へ批判・進言していたのも「戦争が世界中で起こり過ぎていて、現状のイギリス軍ではとても手が足りない」という身も蓋もないお話だったわけです。戦費負担と経済悪化、かくしてあの時のイギリスも今のアメリカも、経済的苦境からくる厭戦ムードへ突入した。


となると、次にやってくるのは国民の不満解消策の為にも必要な経済建て直しとしての軍備縮小であります。


こうした時期においては、特に財務大臣の役割こそがその長期的な外交政策を左右することになる。まず予算を決めることで、何が出来るか考える。外交政策よりも経済建て直しが優先する。当時あったあの有名なイギリスの『10年ルール*1』に基づく軍縮も、こうした経緯から始まっていったんですよね。
かくして真に『平和』を望んでいたから軍縮を進めたというよりは、それはもう軍事費に無駄なカネを使いたくないから、という理由であのワシントン及びロンドン軍縮会議は成立した。まぁもちろんそれはそれである種の平和状態ではあったのですが、しかしやっぱりその本音の理由に納得しない日本やドイツのような国――軍事費増大は無駄金じゃないとする人たちが登場すると、あっさりと反故にされてしまうのでした。
よく言われるナチスドイツへの致命的な対応の遅れについて。しばしばチェンバレンさんなどの政治指導者の不決断が批判されたりするんですが、それは上記「外交政策よりも経済建て直しが優先する」が20年代から30年代初頭まで続いていて、それを変更できなかったというお話でもあるのです。ナチスドイツの脅威を受けてのイギリスの軍備拡大の計画は、当時の財務省によってあっさりと拒否されていた。
イギリス史上初の労働党首相であったラムゼイ・マクドナルド首相は「1932年」でも尚も次のような事を仰っていました。

「現在の状況では、われわれは軍事的にというよりは、財政的、経済的にもはや大きな戦争を行える状況にないというのが現実である。……財務省は、現時点で、財政的リスクがほかの何にもまして大きな問題であると考えている」
「支出の大幅拡大がないということははっきりとさせておく必要がある。なぜなら、それは問題外の選択であるからだ」*2

いつまでたってもミュンヘンの悪夢が忘れられない - maukitiの日記
以前の日記でも書きましたけど、そりゃあチェンバレンさんが1939年になってから今更どうこうしてもどうしようもないレベルですよね。



さて翻って現代のアメリカ。「外交政策よりも経済建て直しが優先する」なんてオバマさんそのものですよね。もちろん彼らの軍事費は今でも圧倒的でありますし、イラクアフガニスタンのそれも比較としては小さな問題だし、まず彼らがどうにかこうにか経済を建て直してくれることを願うのも少なくとも今現在では正解ではあるのでしょう。
まさにあの時のイギリスもそうだったように。
いつまでもそんな戦間期が続けばいいのにね。しかし悲しいことに、そうした超大国たる彼らが警察の役割を弱める戦間期であろうとすればするほど、その終焉は足を速めてやってくることになってしまうのでした。


がんばれアメリカ。

*1:今後10年は戦争は起きないだろうと言う「予測」に基づいて軍縮を正当化する。結果として1920年から22年の間にイギリスの防衛予算は8分の1になった。

*2:アメリカ時代の終わり』上 P45