「権力者が自国民を弾圧するのを躊躇うはずがない」という確信

から生まれる冷笑的な言葉たち。


上海エリートの目に香港の民主化デモはどう映るのか 中国の政治体制こそが世界を主導する?(1/4) | JBpress(日本ビジネスプレス)
ということで香港デモ騒動のおかげか、またもや盛り上がりを見せている「中国は民主化するのか?」なお話。

 一方で、「今の大陸の若者は政治について冷めているし、思考能力も不足している」というコメントもある。確かに、中国大陸の多くの若者は「民主化」が理解できない。香港の学生の要求する「民主」というものが一体どういう価値なのか、考えたことすらないのが現実だろう。

上海エリートの目に香港の民主化デモはどう映るのか 中国の政治体制こそが世界を主導する?(1/4) | JBpress(日本ビジネスプレス)

まぁこうした否定的な言葉が出るのも無理はありませんよね。何しろ彼らにはそもそも「市民が政治参加する」という概念からして縁がないのだから。それはそのように教育されていないという意味でもあるし、それをやれば確実に権力者から暴力によって弾圧されて当然というのが身に染みて解っているからでもあります。前者はともかくとして、後者のお話は「民主主義政治の是非」以前の問題として現代中国に厳然たる現実として存在している。
政治とは暴力であり、暴力とは政治である。つまり『革命』とは暴力で達成されるものであり、逆説的に言えば暴力を持たないそれは確実に権力側の暴力によって潰されるだけ。
民主化に賛成するか反対するかとかそういう問題ですらない。それこそが中国における議論の余地のない自然法則なんですよ。彼らは中国共産党の政治的正当性をそのまま信じているのではなくて、そうした自然法則を信じているだけ。


だから中国の民主化問題って実の所イデオロギーの論争というレベルにすらなっていないんですよね。
もしかしたら本当に民主主義よりも中国的精鋭主義が正解なのかもしれないし、あるいはただのウソなのかもしれない。でも現状の彼らは比較した上で選択したというのではなくて、そもそも選択すらしていない。


極々当たり前に平和な市民社会に生きる現代日本人のような私たちが「権力者が自国民を直接弾圧するのは(さすがに)躊躇うはずだ」と考えている所を、中国の人々は「権力者が自国民を直接弾圧するのを(まさか)躊躇うはずがない」と確信している。歴史的に見て王朝時代の中国からそうであったし、そしてそれは現代でも尚――あの天安門を頂点にして――住民抗議活動を暴力によって鎮圧する数々の風景を見ればほとんど変わっていない。一般の中国国民にとって政府とはそういうものであるし、もっと言えば国家とはそういうものなんですよ。支援を受けるどころか、国から積極的に邪魔されないだけで十分だし、それこそ弾圧されないだけでソーハッピー。
その意味で、現代中国は未だ国民国家ではない、という人も少なくなかったりする。

 無邪気な学生たち――実は大陸の同世代の若者も、選挙制度民主化を訴える香港の学生たちに同様のまなざしを向けている。

 さらには「無邪気」に加えて「幼稚すぎだろ」「笑わせる」とさえ言う者もいる。その理由は明確で、「中央政府がそんなことを認めるはずはない」と確信しているからだ。

 ご存じのように、香港の学生たちの主張は「真の普通選挙の実現」である。しかしそんな抗議活動を、若い上海人エリートたちは「馬鹿げたことを」程度にしか思っていない。

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(それなりに道理の解っている)知識層の中国人たちが、むしろ彼らだからこそ見せる中国民主化運動への諦観というか冷笑主義というか現実主義っぷりは、こうした価値観・現状認識から来ているわけです。彼らは別にイデオロギー的な立場からそう言っているわけではなく、それこそ暴力と政治の関係を冷めた目で見つめながら「甘やかされた若者は何もわかっちゃいない」なんて言葉が出てくるのです。その構図を理解するのが現代中国の民主化を考える上での、まず第一歩ではないかと思います。
かくして上記のような死ぬほど現実主義な彼らの発言が生まれるのでした。そして、こうした一般国民の認識を中国政府はきちんと理解しているからこそ、後に引けないとも言える。まさにこれまでの彼らの支配の正当性を担保してきたのは、そのような暴力の「躊躇のなさ」なのだから。
もしここで躊躇すれば、将来的に更に致命的なパンドラの箱を開けることになりかねない。
お互いに「藪をつついて蛇を出す」人たち - maukitiの日記
こうしたお話を考えると、やっぱり(概ね正しく素朴な住民意思による)香港のデモ騒動を見る目は悲観的になってしまうよなぁと。まぁそうした現地の都合なんてまったく考えずに、善意でデモ支援をしちゃうのが愉快な一部欧米の皆さんだったりもするんですけど。


みなさんはいかがお考えでしょうか?